原子力発電の制御棒挿入後

原発の安全性の疑問

原子力発電の危険性については,様々な場所で議論されています.反対派,推進派とも,説得力に欠けるんだよなー.その中で推進派の話で,いつも疑問に思うのは,

  • 地震が発生すると制御棒が挿入される.
  • 原発は安全に停止する.

というものです.これを聞くたびに,そんなバカなーと思っています.事実,福島原発では制御棒が挿入されたにもかかわらず,メルトダウンが起きたではないかと.

制御棒挿入後の問題

ちょっと調べてみたところ,制御棒を挿入しても,燃料棒の発熱は完全に止まらないことが分かりました.例えば,以下に詳しい説明があります.

資料1 福島原子力発電所事故の根本原因と教訓
資料2 原子炉内が崩壊熱のみによって加熱されている場合に必要な水の投入量の推定

これらの資料は,大変よくできており,原発に関して素人の私でも理解できます.この私のブログの読者の方も一度目を通すと良いでしょう.

あたりまえのことですが,制御棒が納入されても燃料棒自体は発熱します.燃料内の原子核が崩壊することによる発熱です.これを崩壊熱と言います.福島原発では,この崩壊熱が問題でした.ここでは,定量的な議論が重要になります.そこで,先に示した資料2を引用し,崩壊熱の定量的な説明を行います.図1は,制御棒が挿入された後の福島原発の崩壊熱の量です.制御棒挿入後の 5 日間の福島2号機と3号機の平均的な発熱量は,10 MW 程度です.これは,約2万9千世帯の平均消費電力に等しいです.

図1 福島原発の制御棒挿入後の崩壊熱の経時変化 (資料2より引用)

これだけの発熱がある燃料棒を冷却するためには,膨大な冷却水が必要になります.図2は,最低限必要な冷却水量を示したものです.燃料棒の発熱量を水の潜熱で割ったもので,熱平衡に達する量です.制御棒挿入後の5日間で,福島2号機と3号機の平均的な必要な冷却水は,17 ton/h です.これは,1時間あたり風呂の水を85杯に相当します.この冷却水を原子炉に投入できなかったことにより,原子炉がメルトダウンしました.

図2 福島原発の制御棒挿入後の崩壊熱に相当する水量の経時変化 (資料2より引用)

まとめ

原子炉は制御棒が挿入されても,かなりの発熱があります.これを冷却しない限り,原子炉はメルトダウンします.「制御棒が挿入されれば,原子炉が安全に停止する」というのは嘘です.しばらく冷却しなくてはなりません.

もっと恐ろしいのは,制御棒が挿入されなかった場合です.