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研究 加速器 理論 ツイスパラメーター: 転送行列

ツイスパラメーター転送行列シンプレクティック条件とツイスパラメーターの転送

ハミルトンの運動方程式から,ビームダイナミックスの転送行列が満たすべき条件を整理します.その条件を使い,ツイスパラメーターとエミッタンスがどのように転送されるかをまとめます.

目次


はじめに

このページでは,加速器の線形ビーム光学で使う転送行列について,ハミルトン形式から導かれる条件を整理します.特に,転送行列が満たすべきシンプレクティック条件と,そこから分かるエミッタンス保存,ツイスパラメーターの転送式を示します.

結論

ハミルトン系を線形化して得られる転送行列 \(\vm{M}\) は,次のシンプレクティック条件を満たします.

\begin{align} \vm{M}^T\vm{J}\vm{M}=\vm{J} \label{eq:symplectic_condition} \end{align}

ここで,1 自由度の位相空間では

\begin{align} \vm{J}=\begin{bmatrix}0 & 1 \\ -1 & 0\end{bmatrix} \label{eq:J_matrix} \end{align}

です.この条件から,正準座標で書いた転送行列の行列式は \(\det(\vm{M})=1\) となり,位相空間の面積,すなわちエミッタンスが保存されます.

注意すべき点は,条件の強さです.このページで主に扱う \(2\times 2\) の転送行列では,シンプレクティック条件と \(\det(\vm{M})=1\) は同値です.一方,多自由度の位相空間では,\(\det(\vm{M})=1\) はシンプレクティック条件の必要条件にすぎません.一般には,保存すべき構造は体積だけではなく,正準座標と正準運動量の組が作るシンプレクティック構造そのものです.

転送行列

横方向の線形ビーム光学では,粒子の位相空間を

\begin{align} \vm{z}=\begin{bmatrix}x\\x^\prime\end{bmatrix} \end{align}

で表します.ここで,\(x\) は横方向位置,\(x^\prime\) は軌道の傾きです.小角近似では角度とみなせます.

ある加速器要素を通過する前後の位相空間を \(\vm{z}_0\),\(\vm{z}_1\) とすると,線形近似では

\begin{align} \vm{z}_1=\vm{M}\vm{z}_0 \label{eq:transfer_definition} \end{align}

と書けます.この \(\vm{M}\) が転送行列です.

ただし,シンプレクティック条件を厳密に適用する座標は正準座標です.エネルギーが一定の横方向線形光学では,\(x^\prime\) を用いた表式も同じ形で扱えます.一方,エネルギーが変化する場合は,正準運動量または規格化した変数で条件を確認する必要があります.

簡単な転送行列の例

転送行列の最も簡単な例として,自由空間と薄肉レンズを示します.どちらも \(2\times2\) 行列で書け,行列式は 1 になります.つまり,これらはシンプレクティック条件を満たす基本的な転送行列です.

自由空間

長さ \(L\) の自由空間では,粒子は直線的に進みます.そのため傾き \(x^\prime\) は変わらず,位置は \(Lx^\prime\) だけ変化します.したがって,

\begin{align} \begin{bmatrix}x_1\\x_1^\prime\end{bmatrix} = \begin{bmatrix}1 & L\\0 & 1\end{bmatrix} \begin{bmatrix}x_0\\x_0^\prime\end{bmatrix} \label{eq:free_space} \end{align}

です.

薄肉レンズ

厚みを無視した薄肉レンズでは,レンズ内での位置の変化を無視します.その代わり,傾きだけが焦点距離 \(f\) に応じて変化します.このとき,

\begin{align} \begin{bmatrix}x_1\\x_1^\prime\end{bmatrix} = \begin{bmatrix}1 & 0\\-1/f & 1\end{bmatrix} \begin{bmatrix}x_0\\x_0^\prime\end{bmatrix} \label{eq:thin_lens} \end{align}

です.この符号規約では,\(f>0\) が収束レンズ,\(f<0\) が発散レンズを表します.この行列も行列式が 1 で,シンプレクティック条件を満たします.

二次元位相空間での条件

一般の \(2\times 2\) 転送行列を

\begin{align} \vm{M}=\begin{bmatrix}a & b\\c & d\end{bmatrix} \end{align}

とします.式\eqref{eq:symplectic_condition}の左辺を計算すると,

\begin{align} \vm{M}^T\vm{J}\vm{M} = \begin{bmatrix}0 & ad-bc\\-(ad-bc) & 0\end{bmatrix} =\det(\vm{M})\vm{J} \end{align}

です.したがって,1 自由度の \(2\times 2\) 行列では,シンプレクティック条件は

\begin{align} ad-bc=1 \label{eq:det_condition_2d} \end{align}

と同じです.式\eqref{eq:free_space}と式\eqref{eq:thin_lens}はいずれも行列式が 1 であり,この条件を満たしています.また,シンプレクティック条件を満たす行列の積もシンプレクティック条件を満たします.そのため,自由空間と薄肉レンズをいくつ組み合わせても,得られる転送行列はシンプレクティック条件を満たします.

ハミルトン方程式からのシンプレクティック条件

ここでは,転送行列が式\eqref{eq:symplectic_condition}を満たす理由を,ハミルトンの運動方程式から確認します.正準座標 \(q\) と正準運動量 \(p\) からなる位相空間を

\begin{align} \vm{z}=\begin{bmatrix}q\\p\end{bmatrix} \end{align}

とします.ハミルトンの運動方程式は,

\begin{align} \dot{\vm{z}}=\vm{J}\nabla H \label{eq:hamilton_equation} \end{align}

です.成分で書けば,

\begin{align} \begin{bmatrix} \dot q\\\dot p \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 0 & 1\\-1 & 0 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} \partial H/\partial q\\\partial H/\partial p \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} \partial H/\partial p\\-\partial H/\partial q \end{bmatrix} \end{align}

となり,通常のハミルトン方程式 \(\dot q=\partial H/\partial p\),\(\dot p=-\partial H/\partial q\) が得られます.

線形化

基準軌道 \(\bar{\vm{z}}(t)\) のまわりの微小変位を \(\delta\vm{z}\) とします.ハミルトン方程式をこの軌道のまわりで線形化すると,微小変位の運動方程式は

\begin{align} \frac{\diff}{\diff t}(\delta\vm{z})=\vm{A}\delta\vm{z}, \qquad \vm{A}=\vm{J}\vm{H}^{\prime\prime} \label{eq:linearized_hamilton} \end{align}

と書けます.ここで,\(\vm{H}^{\prime\prime}\) は基準軌道上で評価したヘッセ行列

\begin{align} \vm{H}^{\prime\prime}= \begin{bmatrix} \partial^2H/\partial q^2 & \partial^2H/\partial q\partial p\\ \partial^2H/\partial p\partial q & \partial^2H/\partial p^2 \end{bmatrix} \end{align}

です.滑らかなハミルトニアンでは混合微分が等しいので,\(\vm{H}^{\prime\prime}\) は対称行列です.この対称性が,後でシンプレクティック条件を導くときに効きます.

転送行列の導入

微小変位の解を

\begin{align} \delta\vm{z}(t)=\vm{M}(t)\delta\vm{z}(t_0) \end{align}

と書きます.これを式\eqref{eq:linearized_hamilton}に代入すると,

\begin{align} \dot{\vm{M}}=\vm{A}\vm{M}, \qquad \vm{M}(t_0)=\vm{I} \label{eq:M_equation} \end{align}

が得られます.

シンプレクティック条件の導出

まず,\(\vm{A}=\vm{J}\vm{H}^{\prime\prime}\),\(\vm{H}^{\prime\prime}=\vm{H}^{\prime\prime T}\),\(\vm{J}^T=-\vm{J}\),\(\vm{J}^2=-\vm{I}\) から,

\begin{align} \vm{A}^T\vm{J}+\vm{J}\vm{A}=0 \label{eq:ATJ_JA} \end{align}

が成り立ちます.実際,

\begin{align} \vm{A}^T\vm{J}+\vm{J}\vm{A} &=(\vm{J}\vm{H}^{\prime\prime})^T\vm{J}+\vm{J}\vm{J}\vm{H}^{\prime\prime} \nonumber\\ &=\vm{H}^{\prime\prime}\vm{J}^T\vm{J}-\vm{H}^{\prime\prime} \nonumber\\ &=\vm{H}^{\prime\prime}-\vm{H}^{\prime\prime}=0 \end{align}

です.次に,\(\vm{M}^T\vm{J}\vm{M}\) を時間微分します.

\begin{align} \frac{\diff}{\diff t}(\vm{M}^T\vm{J}\vm{M}) &=\dot{\vm{M}}^T\vm{J}\vm{M}+\vm{M}^T\vm{J}\dot{\vm{M}} \nonumber\\ &=(\vm{A}\vm{M})^T\vm{J}\vm{M}+\vm{M}^T\vm{J}\vm{A}\vm{M} \nonumber\\ &=\vm{M}^T(\vm{A}^T\vm{J}+\vm{J}\vm{A})\vm{M} \nonumber\\ &=0 \end{align}

したがって,\(\vm{M}^T\vm{J}\vm{M}\) は時間に依存しません.初期条件 \(\vm{M}(t_0)=\vm{I}\) を使うと,

\begin{align} \vm{M}^T\vm{J}\vm{M}=\vm{J} \end{align}

です.これが,ハミルトン系から得られる転送行列が満たすべき条件です.

エミッタンス保存との関係

シンプレクティック条件からエミッタンス保存が導かれます.式\eqref{eq:symplectic_condition}の両辺の行列式を取ると,

\begin{align} \det(\vm{M}^T\vm{J}\vm{M})=\det(\vm{J}) \end{align}

です.\(\det(\vm{M}^T)=\det(\vm{M})\) なので,

\begin{align} [\det(\vm{M})]^2=1 \end{align}

となります.物理的な転送行列は単位行列から連続的につながっており,途中で特異行列を通らないので,

\begin{align} \det(\vm{M})=1 \label{eq:detM_is_one} \end{align}

です.位相空間の面積は線形変換で \(\lvert\det(\vm{M})\rvert\) 倍されます.したがって,1 自由度の正準位相空間では,式\eqref{eq:detM_is_one}がエミッタンス保存を表します.

図1: 転送行列の集合と保存条件の関係

1 自由度の \(2\times 2\) 転送行列では,\(\det(\vm{M})=1\) と \(\vm{M}^T\vm{J}\vm{M}=\vm{J}\) は同値です.多自由度の場合は,\(\det(\vm{M})=1\) は体積保存を示すだけで,シンプレクティック条件そのものではありません.シンプレクティック条件は,正準構造を保存するという,より強い条件です.

ツイスパラメーターの転送

二次形式による導出

次に,転送行列 \(\vm{M}\) によってツイスパラメーターがどのように変化するかをまとめます.ツイスパラメーターを表す行列を

\begin{align} \vm{Q}=\begin{bmatrix}\gamma & \alpha\\\alpha & \beta\end{bmatrix}, \qquad \beta\gamma-\alpha^2=1 \label{eq:Q_matrix} \end{align}

とします.位相空間の楕円は

\begin{align} \vm{z}^T\vm{Q}\vm{z}=\varepsilon \label{eq:twiss_ellipse} \end{align}

で表されます.ここで,\(\varepsilon\) は楕円の面積を \(\pi\) で割った値,すなわちエミッタンスです.

転送前後の位相空間を \(\vm{z}_0\),\(\vm{z}_1\) とし,\(\vm{z}_1=\vm{M}\vm{z}_0\) とします.同じ粒子集合を転送前後の楕円で表すと,保存されるエミッタンス \(\varepsilon\) に対して

\begin{align} \vm{z}_0^T\vm{Q}_0\vm{z}_0 =\vm{z}_1^T\vm{Q}_1\vm{z}_1 =\vm{z}_0^T\vm{M}^T\vm{Q}_1\vm{M}\vm{z}_0 \end{align}

です.任意の \(\vm{z}_0\) で成り立つので,

\begin{align} \vm{Q}_1=\vm{M}^{-T}\vm{Q}_0\vm{M}^{-1} \label{eq:Q_transform} \end{align}

が得られます.

ただし,この式は逆行列を含むため,実際の計算では少し扱いにくいです.そこで Courant-Snyder 行列

\begin{align} \vm{C}= -\vm{J}\vm{Q}\vm{J} = \begin{bmatrix}\beta & -\alpha\\-\alpha & \gamma\end{bmatrix} \label{eq:C_matrix} \end{align}

を使います.シンプレクティック条件を使うと,式\eqref{eq:Q_transform}は

\begin{align} \vm{C}_1=\vm{M}\vm{C}_0\vm{M}^T \label{eq:C_transform} \end{align}

に変形できます.これにより,逆行列ではなく転置行列だけでツイスパラメーターを転送できます.

\(\vm{M}=[m_{ij}]\) とすると,成分表示は

\begin{align} \alpha_1 &= (m_{11}m_{22}+m_{12}m_{21})\alpha_0 -m_{21}m_{11}\beta_0-m_{12}m_{22}\gamma_0 \nonumber\\ \beta_1 &= -2m_{11}m_{12}\alpha_0+m_{11}^2\beta_0+m_{12}^2\gamma_0 \nonumber\\ \gamma_1 &= -2m_{22}m_{21}\alpha_0+m_{21}^2\beta_0+m_{22}^2\gamma_0 \label{eq:twiss_component} \end{align}

です.この式を使えば,初期ツイスパラメーターと転送行列から,転送後のツイスパラメーターを計算できます.

転送行列による表現

前項の成分式は,ツイスパラメーターを成分にもつベクトルの転送行列として書くこともできます.ここでは,ツイスパラメーターのベクトルを

\begin{align} \vm{t}=\begin{bmatrix}\beta\\\alpha\\\gamma\end{bmatrix} \end{align}

とします.粒子の位相空間を転送する行列を

\begin{align} \vm{M}=\begin{bmatrix}m_{11} & m_{12}\\m_{21} & m_{22}\end{bmatrix} \end{align}

とすると,ツイスパラメーターの変化は

\begin{align} \begin{bmatrix} \beta_1\\ \alpha_1\\ \gamma_1 \end{bmatrix} &= \begin{bmatrix} m_{11}^2 & -2m_{11}m_{12} & m_{12}^2\\ -m_{11}m_{21} & m_{11}m_{22}+m_{12}m_{21} & -m_{12}m_{22}\\ m_{21}^2 & -2m_{21}m_{22} & m_{22}^2 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} \beta_0\\ \alpha_0\\ \gamma_0 \end{bmatrix} \label{eq:twiss_transfer_matrix} \end{align}

と書けます.この式の中央の \(3\times3\) 行列が,ツイスパラメーターに対する転送行列です.粒子の位相空間を転送する \(2\times2\) 行列 \(\vm{M}\) とは別の行列ですが,\(\vm{M}\) の成分から作られます.

すなわち,

\begin{align} \vm{t}_1=\vm{R}(\vm{M})\vm{t}_0 \end{align}

です.ここで,\(\vm{R}(\vm{M})\) は式\eqref{eq:twiss_transfer_matrix}の中央の行列です.\(\vm{M}\) がシンプレクティック条件を満たし,初期値が \(\beta_0\gamma_0-\alpha_0^2=1\) を満たすなら,転送後も \(\beta_1\gamma_1-\alpha_1^2=1\) が保たれます.

記号の約束と注意点

このページでは,式の見通しを良くするため,記号の約束を次のように揃えます.転送行列の条件を追うときは,座標と運動量の順序を途中で入れ替えないことが大切です.

  • ハミルトン形式では,位相空間ベクトルを \(\vm{z}=(q,\,p)^T\) とします.ここで,\(q\) は一般化座標,\(p\) は一般化運動量です.
  • この順序では,ハミルトン方程式は \(\dot q=\partial H/\partial p\),\(\dot p=-\partial H/\partial q\) です.
  • ヘッセ行列は \(\vm{H}^{\prime\prime}\) と書き,右下成分は \(\partial^2H/\partial p^2\) です.混合微分が等しい場合,\(\vm{H}^{\prime\prime}\) は対称行列になります.
  • 微小変位も同じ順序で,\(\delta\vm{z}=(\delta q,\,\delta p)^T\) とします.
  • 横方向のビーム光学では,\(\vm{z}=(x,\,x^\prime)^T\) と書きます.この場合の \(x^\prime\) は軌道の傾きで,厳密には正準運動量そのものではありません.エネルギーが一定なら同じ形の議論が使えますが,エネルギーが変化する場合は正準運動量または規格化した変数で確認します.
  • 1 自由度の \(2\times2\) 転送行列では,シンプレクティック条件と \(\det(\vm{M})=1\) は同値です.多自由度では同値ではなく,シンプレクティック条件の方が強い条件です.

まとめ

このページの要点は次の通りです.

  • ハミルトン系を線形化して得られる転送行列は,\(\vm{M}^T\vm{J}\vm{M}=\vm{J}\) を満たします.
  • 1 自由度の \(2\times2\) 行列では,この条件は \(\det(\vm{M})=1\) と同値です.ただし,多自由度では \(\det(\vm{M})=1\) だけでは不十分です.
  • シンプレクティック条件により,1 自由度では位相空間の向き付き面積が保存されます.これは線形光学でのエミッタンス保存に対応します.
  • ツイスパラメーターは,\(\vm{C}_1=\vm{M}\vm{C}_0\vm{M}^T\) または式\eqref{eq:twiss_transfer_matrix}で転送できます.

したがって,転送行列を作るときは,シンプレクティック条件を満たしているかを確認することが重要です.特に多自由度の計算では,単に行列式を見るだけでは十分ではなく,正準構造が保存されているかを調べる必要があります.

ページ作成情報

参考資料

  1. エネルギー可変空洞のビームダイナミックス計算
  2. A. Wolski, Beam Dynamics in High Energy Particle Accelerators, Imperial College Press.
  3. 楕円,二次形式と楕円の面積についてのメモ.
  4. 正規分布,エミッタンスとツイスパラメーターの関係についてのメモ.

更新履歴

2026年06月04日 ページの新規作成


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