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加速空洞共振器が連なった加速空胴の基礎

高エネルギー加速器で使われる共振空洞が連なった加速空洞の理論的なお話をします.

目次


はじめに

静電型の加速器は,グランド電位と加速電極との間の放電の問題により,高エネルギーの加速器には向きません.通常は,その心配のない高周波電磁場を使った加速器が使われます.共振空洞に電磁場を貯めこみ,その電場で加速るのでグランド電位との放電の問題は解消されます.さらに,共振状態を上手に利用することにより,短い距離で大きな加速電圧を得ることができます.一石二鳥というわけですが,そうそううまい話はなく,このような高周波を使った加速空洞には色々と難しい問題もあります.

加速空洞を設計する場合,さまざまな制約条件があります.RF電力とサイズ,加速電圧も制約条件になります.図1(A)のように,ひとつの加速空洞に,利用可能な全てのRF電力を投入した場合の空洞の加速電圧を 1 とします.次に,図1(b)のように,同じRF電力を二分配し,二つの加速空洞に入力すること考えます.すると,加速空洞ひとつあたり加速電圧は,$\sqrt{2}/2$になります.このニ個の加速空洞により,合計$\sqrt{2}$の加速電圧になります.同じRF電力でも,加速空洞を2にすることにより,$\sqrt{2}$倍の加速電圧が得られます.図\fef{}(C)のように,$N$個の加速空洞にすると $\sqrt{N}$ 倍の加速電圧が得られます.かなりの省エネルギーです.以上の議論から,複数の加速空洞を使うメリットが理解できるしょう.

加速セル数とRF電力,加速電圧の関係
加速セル数とRF電力,加速電圧の関係

実際の加速空洞では,RF伝送ラインを分け,空洞毎にRF電量を入力することはありません.費用がかかりすぎる,システムが複雑,多数のRF分配器の設置が難しいなどの問題があります.実際,ほとんどのマルチセルの加速空洞では,図\ref{}(A)あるいは(B)のように伝送ラインは分割しないで,RF 入力ポートはひとつです.RF電力は小さな穴を通して,全ての加速空洞に行き渡ります.こうすることで,加速空洞の構造が単純になります.これは共振空洞が小さな結合穴を通して,連なっている状況です.これは,連成振動の問題と同じです.ここでは,それをきちんと説明します.

マルチセル空洞

固有関数

マルチセルの加速空洞は,複数の共振器が小さな結合穴を通してカップリングしています.これをを数学的なモデルをつくり,定量的に取り扱います.そこで,ここでは図\ref{}に示すモデルを取り扱います.ひとつの加速空洞は,その両側の空洞と小さな穴を通して弱く結合しています.加速空洞は,左から1, 2, 3, … $N$と番号付けられています.

このモデル$i$番目の空洞内部の電磁場$(\vm{E}_i,\,\vm{H}_i)$を考えます.そのための準備として, \begin{align} \rot{\vm{e}}_a = \cfrac{\omega_a}{c}\vm{h}_a && \rot{\vm{h}}_a = \cfrac{\omega_a}{c}\vm{e}_a \label{eq:igen_equations} \end{align} が成り立つ,固有値 $\omega_a$ と固有関数 $(\vm{e}_a,\,\vm{h}_a)$ を導入します.式から,明らかに,これらは実際の電磁場と密接に関わりがあり,固有関数を $i$ 倍すると電磁場の方程式になリます.これら固有関数境界条件を指定すれば,具体的な固有関数や固有値が決まります.実際の加速器では,結合穴を除いた部分の境界条件は金属境界です.固有関数にも同じ条件を課します. \begin{align} \vm{e}_a\times\vm{n}=0 && \vm{h}_a\cdot\vm{n}=0\label{eq:BC_outerwall} \end{align} $\vm{n}$は,境界の外側に向いた法線方向の単位ベクトルです.その一方,結合穴部分では,様々な境界条件が考えられれます.そこで,本サイトでは電気的短絡面 (ショートモード) と磁気的短絡面 (オープンモード) の二つの境界条件, \begin{align} &\bar{\vm{e}}_a\times\vm{n}=0 && \bar{\vm{h}}_a\cdot\vm{n}=0 && \text{ショートモード} \label{eq:short_BC_apeture}\\ &\hat{\vm{e}}_a\cdot\vm{n}=0 && \hat{\vm{h}}_a\times\vm{n}=0 && オープンモード \label{eq:open_BC_apeture}\\ \end{align} を採用します.ショートモードの時の固有値と固有関数を $\bar{\omega}_a$ と $(\bar{e},\,\bar{h})$,オープンモードでは $\hat{\omega}_a$ と $(\hat{e}_a,\,\hat{h}_a)$とします.もちろん,それぞれの固有値と固有関数では式(\ref{eq:igen_equations})が成り立ち,結合穴を除いた領域では式(\ref{eq:BC_outerwall})で示す境界条件を満たします.後の計算を便利にするために,これらの固有関数は, \begin{align} & \int_V \bar{\vm{e}}_a\cdot\bar{\vm{e}}_a^\ast\diff v=1 & & \int_V \bar{\vm{h}}_a\cdot\bar{\vm{h}}_a^\ast\diff v=1 \\ & \int_V \hat{\vm{e}}_a\cdot\hat{\vm{e}}_a^\ast\diff v=1 & & \int_V \hat{\vm{h}}_a\cdot\hat{\vm{h}}_a^\ast\diff v=1 \\ \end{align} と規格化しておきます.アスタリスクは複素共役で,より一般的な固有関数にも対応します.

これら,二組 (ショートモード, オープンモード)の二つの固有値 $\bar{\omega}_a$ と $\hat{\omega}_a$ と二組の固有関数 $(\bar{\vm{e}_a}, \bar{\vm{h}}_a)$ と$(\hat{\vm{e}_a}, \hat{\vm{h}}_a)$ を使い,マルチセルの電磁場を計算します.

基底関数

着目する $j$ 番目の加速セル内の電場を $\vm{E}_j$ とします.それを,$j$ 番目の加速空洞のオープンモードの電場で, \begin{align} \vm{E}_j=a_j \hat{e_i} \label{eq:base_open_mode} \end{align} と表します.マルチセルの加速空洞の場合,各モードでの電場の形はよく似ています.$0$ モードであっても,$\pi/2$ モードであっても,その他の $2\pi/3$ や $\pi$ でも,結合孔を除いた部分の電磁場は似たようなものです.モードによる電磁場の違いは,位相差あるいは強度 $a=j$ として現れます.もちろん,式(\ref{eq:base_open_mode})の展開の基底関数を増やすと電磁場の計算精度は上がります.この辺の話は,私の論文に記載があります.

N 個のマルチセルから構成される加速空洞の電場 $\vm{E}$ は, \begin{align} \vm{E}=\sum_{j=1}^N a_j\hat{\vm{e}}_j \label{eq:E_expand_open_e} \end{align} となります.マルチセル内の電場 $\vm{E}$ を基底関数 $\hat{\vm{e}}_j$ で展開します.これは,「オープンモード展開」と呼ばれるものです.この後の議論では,周波数とモードの強度 $a_j$を求めることが主題となります.一方,この基底関を解析的に求めることはできません.境界条件が複雑なため,有限要素法のような数値解析が必要です.それには別の面白い話がありますが,ここでは取り扱いません.

もちろん,空洞内の電磁場 $(\vm{E},\,\vm{H})$ はマックスウェルの方程式を満たします.その解は,時間空間 $(\vm{r},\,t)$,あるいは周波数空間 $(\vm{r},\,\omega)$ のいずれかで記述できます.ここでは,共振空洞の表示に便利な後者で記述します.議論のはじめに式(\ref{eq:igen_equations})を使ったことから,賢明な読者はそのこは気がついていたと思いますが.

固有値方程式

このマルチセル空洞を定量的に取り扱うために,以下のベクトル解析の恒等式からはじめます. \begin{align} \int_V\left(\vm{A}\cdot\rot{\rot{\vm{B}}}-\vm{B}\cdot\rot{\rot{\vm{A}}}\right)\diff V = \int_S \left(\vm{B}\times\rot{A}-\vm{A}\times\rot{\vm{B}}\right)\cdot\vm{n}\diff S \end{align} $\vm{A}$にショートモードの$\bar{\vm{e}}_a^\ast$を,$\vm{B}$に式(\ref{eq:E_expand_open_e})の$\vm{E}$を代入します.そして,式(\ref{eq:igen_equations})とマックウェルの方程式から \begin{align} \left[\left(\frac{\omega}{c}\right)^2-\left(\frac{\bar{\omega}}{c}\right)^2\right] \int_{V}\bar{\vm{e}}_a^\ast\cdot\vm{E}\diff V = \int_{S}\left(\cfrac{\bar{\omega}_a}{c}\vm{E}\times \bar{\vm{h}}_a^\ast+i\frac{\omega}{c}\bar{\vm{e}}_a^\ast \times\vm{H}\right)\cdot\vm{n}\diff S \end{align} が,直ちに得られます.これを導く過程で近似を全く使わかなったので,この式はいつでもどこでも完璧に成り立ちます,そこで,図\ref{}に示す$j$番目の加速空洞で考えます.境界条件により,この右辺の第二項はゼロになります.したがって, \begin{align} \left[\left(\frac{\omega}{c}\right)^2-\left(\frac{\bar{\omega}}{c}\right)^2\right] \int_{V_j}\bar{\vm{e}}_j^\ast\cdot\vm{E}\diff V = \cfrac{\bar{\omega}_j}{c}\int_{S_j}\vm{E}\times \bar{\vm{h}}_j^\ast\cdot\vm{n}\diff S \end{align} が得られます.電場 $\vm{E}$ は結合孔を除いて,境界と垂直になります.したがって,右辺は, \begin{align} \left[\left(\frac{\omega}{c}\right)^2-\left(\frac{\bar{\omega}}{c}\right)^2\right] \int_{V_j}\bar{\vm{e}}_j^\ast\cdot\vm{E}\diff v = \cfrac{\bar{\omega}_j}{c}\int_{C_{j-1/2}}\vm{E}\times \bar{\vm{h}}_j}^\ast\cdot\vm{n}\diff S \end{align}

他のモデル(連成振動)

機械的モデル

電気的モデル

連成振動のモデルはどこまで正しいか?

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参考文献

更新履歴

2014年11月30日 ページの新規作成


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