3 静電場が満たす偏微分方程式

3.1 スカラーポテンシャル

まずは、静電場が満たす方程式を示す。これはマクスウェルの方程式の時間の項をゼロとした式になる。それは、

  $\displaystyle \div{\boldsymbol{D}}=\rho$ (1)
  $\displaystyle \nabla\times \boldsymbol{E}=0$ (2)

と書き表せる。ここで、 $ \boldsymbol{D}$は電束密度、 $ \boldsymbol{H}$は電場の強さ、 $ \boldsymbol{\rho}$は電 荷密度を表す。ただし、物質中では

$\displaystyle \boldsymbol{D}=\varepsilon\boldsymbol{E}$ (3)

の関係がある。ここで、 $ \varepsilon$は誘電率である。これは、異方性の物質では2階の テンソルとなる。しかし、ほとんど実用に使われている物質は、等方的である。そこで、 ここでは、等方的な物質のみを考えることにする。すると、それはスカラー量として取り 扱うことができ、計算が簡単になる。静電場の問題は、全て電束密度と電場の関係式 (3)を用い、連立偏微分方程式(1)と (2)を解くことになる。これで、全てであるが、問題によっては簡 単に解けないのである。問題に応じた解法が必要となってくるが、基本はこれらの方程式 であることを忘れてはならない。

通常、静電場の問題では電場 $ \boldsymbol{E}$を計算するより、ポテンシャルを計算する方が簡単 である。電場はベクトルで未知数が3個あるが、ポテンシャルはスカラーなので未知数が1 個で済む。どう見ても計算が簡単である。このポテンシャル$ \phi$は、正確にはスカラーポテン シャルと言い

$\displaystyle \boldsymbol{E}=-\nabla \phi$ (4)

と定義される。こうすることにより、静電場のマクスウェルの方程式 (2)が自動的に満足される2

これで、静電場のマクスウェルの方程式のひとつが満足したので、残りを満足させるため のスカラーポテンシャルの条件を探せばよい。残りの式(1)と式 (3)、そしてスカラーポテンシャルの定義とから、

$\displaystyle \rho$ $\displaystyle =\div{\boldsymbol{D}}$    
  $\displaystyle =\div{\varepsilon\boldsymbol{E}}$    
  $\displaystyle =-\nabla\cdot(\varepsilon\nabla \phi )$ (5)

が直ちに分かる。これが静電場を計算するときのスカラーポテンシャルが満たすべき偏微 分方程式である。右辺と左辺を入れ替えて、見栄えよく記述すると

$\displaystyle \nabla\cdot(\varepsilon\nabla \phi )$ $\displaystyle =-\rho$ (6)

となる。以前求めた、静磁場のベクトルポテンシャルが満足す る偏微分方程式と似た形をしている。次節では、この汎関数を示す。

汎関数を示す前に、もう少し一般的なことを述べておく。誘電率は一定と考えることが多 い。その場合、誘電率は積分の外に出すことができ、

$\displaystyle \nabla^2\phi=-\frac{\rho}{\varepsilon}$ (7)

となる。これは、ポアッソン(Poisson)方程式と呼ばれる。また、計算する領域内に電荷 が無い問題も多く、その場合は

$\displaystyle \nabla^2\phi=0$ (8)

となる。これは、ラプラス(Laplace)方程式と呼ばれる。

実際の静電場の問題では、マクスウェルの方程式から直接導かれる式 (1)や(2)の代わりに、適当な境界条件を 課して、式(6)や(7)、 (8)を計算することにある。これらの式のうち、条件に適合した最も 簡単式を選択するのは言うまでもない。次節ではもっとも条件の厳しい、式 (6)の汎関数を示す。

3.2 汎関数

静磁場の汎関数から、静電場のそれは

$\displaystyle F[\phi] =\int\left[\frac{\varepsilon}{2}\left(\nabla \phi \right)^2 -\rho\phi\right]dV$ (9)

と想像できる。本当かどうか、この式の第一変分$ \delta F$を計算し、それがゼロになる条件を 考えることにする。第一変分は、$ \phi$ $ \delta\phi$変化させたときの微小変化量で

$\displaystyle \delta F$ $\displaystyle =F[\phi+\delta\phi]-F[\phi]$    
  $\displaystyle =\int\left[\frac{\varepsilon}{2} \left\{\nabla\left(\phi+\delta\p...
...\phi+\delta\phi\right)\right\} -\rho\cdot\left(\phi+\delta\phi\right) \right]dV$    
  $\displaystyle \qquad\qquad -\int\left[\frac{\varepsilon}{2} \left(\nabla\phi\right)^2 -\rho\phi \right]dV$    
  $\displaystyle =\int\left[\frac{\varepsilon}{2} \left\{\left(\nabla \phi \right)...
...) +\left(\nabla \delta\phi \right)^2\right\} -\rho\phi-\rho\delta\phi \right]dV$    
  $\displaystyle \qquad\qquad -\int\left[\frac{\varepsilon}{2} \left(\nabla\phi\right)^2 -\rho\phi \right]dV$    
     2次の微少量を無視すると    
  $\displaystyle =\int\left[\varepsilon \left(\nabla \phi \right)\cdot\left(\nabla \delta\phi \right) -\rho\delta\phi \right]dV \nonumber$    
     ベクトル恒等式 $ \div{(\boldsymbol{V}f)}=\boldsymbol{V}\cdot\nabla f+f\div{\boldsymbol{V}}$を 上 手につかう    
      $ \boldsymbol{V}=\varepsilon(\nabla \phi ),\quad f=\delta\phi$とする。    
  $\displaystyle =\int\left[ \nabla\cdot\left\{\varepsilon(\nabla \phi )\delta\phi...
...\phi\nabla\cdot\left\{\varepsilon(\nabla\phi)\right\} -\rho\delta\phi \right]dV$    
     この式の第1項に発散定理を使い、式を整理すると    
  $\displaystyle =\int\varepsilon(\nabla \phi )\delta\phi\cdot\boldsymbol{n}dS+ \int\left[ \nabla\cdot(\varepsilon\nabla\phi)-\rho \right]\delta\phi dV$ (10)

となる。

いつものように、任意の $ \delta\phi$に対して、この第一変分$ \delta F$がゼ ロになる条件を考える。そのためには、式(10)の右辺の第1項と 第2項の被積分関数がともにゼロになる必要がある。まず、第1項であるが、それは

  $\displaystyle (\nabla \phi )\cdot\boldsymbol{n}=0$ (11)
  $\displaystyle \delta\phi=0$ (12)

のいずれかである。最初の条件はノイマン条件で、何も境界条件を指定しなければ、電場 と境界は平行になると言うことであ。2番目のものは、境界でのスカラーポテンシャルを指定するディレ クレ条件である。即ち、第一変分の右辺第1項は境界条件を表すのである。

次に、第2項であるが、これは計算している領域で

$\displaystyle \nabla\cdot(\varepsilon\nabla\phi)-\rho=0$ (13)

となる必要がある。これは、スカラーポテンシャルを用いた静電場のマクスウェルの方程 式そのもので、式(6)と等しい。

以上のことから、静電場を計算するためには、式(9)の 第一変分をゼロにすればよいことが分かる。静電場のマクスウェルの方程式は、式 (9)の第1変分をゼロにするのと等しいのである。


ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年8月20日


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