2 数値計算方法

次のような条件の静電場を計算する方法について検討を行う. このような条件のもと,差分法と有限要素法(変分法),有限積分法の数値計算について簡 単にコメントする.

2.1 差分法

ここで計算する静電場の方程式は,式(1)とスカラーポテンシャルか ら,

$\displaystyle \div{(\varepsilon\nabla \phi )}=0$ (10)

導くことができる.これは2階の微分方程式になっており,差分の式はとなりの 要素を含めた計算になる.隣の要素まで含めるとなると,一つの式の中に誘電率が異なる 部分が生じる(図2).この取り扱いは面倒である.

あるいは,それぞれの誘電体中でラプラス方程式

$\displaystyle \nabla^2\phi=0$ (11)

を計算してもスカラーポテンシャルを得ることもできる.しかし,実際この式を計算する こは,簡単ではない.二つの誘電体の境界条件が設定できないからである.

以上のことから,差分法はこのように誘電率が異なる静電場の計算には適さない.

図 2: 差分法のメッシュとノード.誘電率の異なる部分を横切るので,取り扱いが 困難二になる.
\includegraphics[keepaspectratio,scale=1.0]{figure/square_sabun.eps}

2.2 有限要素法

一つの要素で完結すると言うことから,変分法を基礎とする有限要素法の方が,このよう な問題に適する.変分法とラプラス方程式の関係は,付録Aを見よ.

2.2.1 汎関数の計算

次の汎関数2

$\displaystyle J[\phi]=\int_V \frac{\varepsilon}{2}\left(\nabla \phi \cdot\nabla \phi \right) \mathrm{d}V$ (12)

の第一変分がゼロの時の,ラプラス方程式になる(付録A参照).この第一変分がゼロになる $ \phi$が求める--ことが静電場の問題となる.ここで重要なことは,被積分関数が1階の 微分になっていることである.後で述べることになるが,1階の微分だと一つの要素の隣 接する4つのポテンシャルから計算できる.

汎関数は3次元の積分であるが,これ以降,二次元で話を進める.三次元だと図を書くの が大変だし,式も長くなる.また,二次元であろうが三次元であろうが本質的に同じで, 三次元への拡張も簡単である.

任意の領域で式(12)の積分は,図3正方形メッシュに分割して近似計算できる.

$\displaystyle U[\phi]=\frac{1}{2}\sum_i\sum_j \int_{\Omega_{ij}}\varepsilon\nabla \phi \cdot\nabla \phi \mathrm{d}V$ (13)

四角形要素ごとに積分を行い,すべてを足しあわせることで全体の汎関数$ U[\phi]$の値を計算 するのである.積分は要素ごとに行うので,誘電率が変化しても要素内で同一になるよう にしておけば計算は容易になる.
図 3: 有限要素法のメッシュとノード.おのおの要素ごとに積分を行う.
\includegraphics[keepaspectratio,scale=1.0]{figure/square_fem.eps}

式(13)の計算は,四角形要素内での積分を行わなくてはならない.ひとつの 四角形要素を図4のようにし,それを4分割して積分を行う.まず1 番目の部分の勾配は

$\displaystyle \nabla \phi =\left( \frac{\phi_{i+1\,j}-\phi_{i\,j}}{h},\, \frac{\phi_{i\,j+1}-\phi_{i\,j}}{h} \right)$ (14)

となる.したがって,1番目の積分は,

$\displaystyle \frac{1}{2}\int\varepsilon\nabla \phi \cdot\nabla \phi \mathrm{d}V$ $\displaystyle =\frac{\varepsilon_{i+1/2\,j+1/2}}{8}\left[ (\phi_{i+1\,j}-\phi_{i\,j})^2+ (\phi_{i\,j+1}-\phi_{i\,j})^2 \right]$ (15)

となる.同じことを2番目,3番目,4番目の領域に対して行い,合計すると$ i\,j$番目の エレメントの積分値が計算できる.

\begin{multline}
\int_{\Omega_{ij}}\varepsilon\nabla \phi \cdot\nabla \phi \mat...
...i\,j+1}-\phi_{i\,j})^2+
(\phi_{i+1\,j+1}-\phi_{i+1\,j})^2\right]
\end{multline}

領域全体$ \Omega$の積分は,

$\displaystyle U[\phi]$ $\displaystyle =\frac{1}{2}\sum_i\sum_j \int_{\Omega_{ij}}\varepsilon\nabla \phi \cdot\nabla \phi \mathrm{d}V$    
  $\displaystyle =\frac{1}{4}\sum_i\sum_j \varepsilon_{i+1/2\,j+1/2}\left[ (\phi_{i+1\,j}-\phi_{i\,j})^2+ (\phi_{i+1\,j+1}-\phi_{i\,j+1})^2\right.$    
  $\displaystyle \qquad\qquad\qquad\qquad\left.+(\phi_{i\,j+1}-\phi_{i\,j})^2+ (\phi_{i+1\,j+1}-\phi_{i+1\,j})^2\right]$ (16)

となる.
図: 有限要素法のひとつの$ i\,j$番目のエレメントとポテンシャル.要素内で誘 電率は一定で, $ \varepsilon_{i\,j}$である.積分は1〜4の領域に分け て行う.
\includegraphics[keepaspectratio,scale=1.0]{figure/element_fem.eps}

2.2.2 第一変分の計算

付録Aで述べたように,式(17)の個々の $ \phi_{i\,j}$を変化させても,汎関数$ U[\phi]$の値が変化しないとき,正しい ポテンシャル $ \phi_{i\,j}$となる.ようするに,境界条件を満たしつつ,静電場のエネルギー $ U[\phi]$が停留値--ここでは極小値--をとるポテンシャル$ \phi$を探せということである.

式(17)汎関数が停留値になる条件は,

  $\displaystyle \if 11 \frac{\partial U}{\partial \phi_{1\,1}} \else \frac{\partial^{1} U}{\partial \phi_{1\,1}^{1}}\fi =0$   $\displaystyle \if 11 \frac{\partial U}{\partial \phi_{1\,2}} \else \frac{\partial^{1} U}{\partial \phi_{1\,2}^{1}}\fi =0$   $\displaystyle \if 11 \frac{\partial U}{\partial \phi_{1\,3}} \else \frac{\partial^{1} U}{\partial \phi_{1\,3}^{1}}\fi =0$   $\displaystyle \cdots$   $\displaystyle \if 11 \frac{\partial U}{\partial \phi_{i\,j}} \else \frac{\partial^{1} U}{\partial \phi_{i\,j}^{1}}\fi =0$   $\displaystyle \cdots$   (17)

となる.これらの式のうち,もっとも一般的な $ \partial U/\partial \phi_{i\,j}$を計 算する. $ i=1,\,2,\,3,\,\cdots$ $ j=1,\,2,\,3,\,\cdots$$ i$$ j$を変化させれば, すべての式を得ることができる.ただし,境界に接する要素は気をつけなくてはならない.

$ \partial U/\partial \phi_{i\,j}$を計算するために,式(17)の $ \phi_{i\,j}$の周りの4つの要素に関わる項を書き出すと

$\displaystyle U[\phi]$ $\displaystyle =\cdots$    
  $\displaystyle \quad+\frac{\varepsilon_{i-1/2\,j-1/2}}{4}\left[ (\phi_{i\,j-1}-\...
...\,j})^2+(\phi_{i-1\,j}-\phi_{i-1\,j-1})^2+ (\phi_{i\,j}-\phi_{i\,j-1})^2\right]$    
  $\displaystyle \quad+\frac{\varepsilon_{i+1/2\,j-1/2}}{4}\left[ (\phi_{i+1\,j-1}...
...\,j})^2+(\phi_{i\,j}-\phi_{i\,j-1})^2+ (\phi_{i+1\,j}-\phi_{i+1\,j-1})^2\right]$    
  $\displaystyle \quad+\cdots$    
  $\displaystyle \quad+\frac{\varepsilon_{i-1/2\,j+1/2}}{4}\left[ (\phi_{i\,j}-\ph...
...j+1})^2+(\phi_{i-1\,j+1}-\phi_{i-1\,j})^2+ (\phi_{i\,j+1}-\phi_{i\,j})^2\right]$    
  $\displaystyle \quad+\frac{\varepsilon_{i+1/2\,j+1/2}}{4}\left[ (\phi_{i+1\,j}-\...
...j+1})^2+(\phi_{i\,j+1}-\phi_{i\,j})^2+ (\phi_{i+1\,j+1}-\phi_{i+1\,j})^2\right]$    
  $\displaystyle \quad+\cdots$ (18)

となる.これは,式(17)の和の計算の部分を展開しただけであるが, 図5を見ればこうなることが分かるだろう.この結果を用いると,

\begin{multline}\if 11 \frac{\partial U}{\partial \phi_{i\,j}}
\else \frac{\...
...}{2}
\left(2\phi_{i\,j}-\phi_{i+1\,j}-\phi_{i\,j+1}\right)
=0
\end{multline}

が得られる.これは,計算領域内部のすべてのポテンシャルについて成り立つ.したがって, 式(20)は, $ i=1,\,2,\,3,\,\cdots$ $ j=1,\,2,\,3,\,\cdots$とする ことにより連立方程式となっていることが理解できるだろう.境界条件としてポテンシャルの 値が与えれれているところをのぞいて,この連立方程式を解けばよい.
図: 汎関数の積分計算のうち,ポテンシャル $ \phi_{i,\,j}$が関係する要素.
\includegraphics[keepaspectratio,scale=0.8]{figure/diff.eps}

領域の境界でポテンシャルが与えられていない場合,その場所では電場が境界と垂直にな る3.これは,式(25)から保証される.

連立方程式(20)を見ると,ほとんど差分の式と同じである.もし,誘 電率が一定とすると差分の式と全く同一になる.

2.3 有限積分法

もちろん,有限積分法も適用できる.時間がないので,その解説は行わない.
ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年8月20日


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