2 導体中の静電場

最初の2つの導体内部と空洞内の静電場の話は,ファインマン物理学IIIの電気磁気学が種 本.ただ,これはどこでも示されているが,ファインマンの教科書は分かりやすいのでお 薦め.

2.1 導体内部の静電場

金属のような導体の内部には大量の自由電子があり,自由に動きまわれる.例えば,ここ に直径10[cm]の銅の球があるとする.この中の自由電子の数はいくらほどであろうか?. 銅の密度は8.93 $ \mathrm{[g/cm^2]}$で,原子量は63.5である.アボガドロ数は $ 6.02\times 10^{23}$である.銅は1価の金属であるため,1個の原子が1この自由電子を 放出する.したがって,この球の中の自由電子数$ N$は,

$\displaystyle N$ $\displaystyle =\frac{\frac{4}{3}\pi\times5^2\times 8.93}{63.5}\times6.02\times 10^{23}$    
  $\displaystyle =4.4\times 10^{25}$ (13)

となる.これほど多くの電子が自由に動きまわっているのである.さらに,電子の質量は $ 9.1\times 10^{-31}\mathrm{[kg]}$と非常に軽い.非常に軽い電子が,大量に球の中に つまっている状態を想像せよ.

この球を帯電していない状態で,静電場の中に置くことを考える.金属中の電場はどのよ うになるであろうか?.金属中に電場ができると,素早く電子が移動し,その電場を打ち 消すように移動する.その移動は,電場がなくなるまで続く.電場がなくなるまでの時間 はとてつもなく早い.したがって,通常の状態では,金属中の静電場はゼロとなる.

金属球を帯電させた場合は,どうなるであろうか?.金属球を絶縁体で支え,そこに向かっ て電子銃で電子を当てればよい.そのうち,電子がクーロン力により反発され,電子ビー ムがそれるが,ある程度の帯電は可能である.この場合でも,金属球内部では静電場はゼ ロになる.先ほどと同様の理由で,電場があると電子が動くからである.それでは,帯電 した電子は何処にいくのだろうか?.金属球には余分な電子があるはずである.金属球内 部に余分な電子があると,ガウスの法則により電場ができてしまう.そのようなことから, 金属内部には余分な電子はないはずである.余分な電子は,金属の表面の極薄い部分に集 まっているのである.内部に電場が生じないように表面に分布している.それらの電子は, 余分な電子から力を受けているが,他の力により金属表面にとどめられているのである.

以上のことから,金属内部での静電場はゼロと結論できる.いかなる場合でも,静電場は ゼロである.静電場ではなく,時間的に変動する電磁場でも周波数が低ければ,電場はゼ ロとなる.電場がゼロとならない周波数は,プラズマ周波数以上である.金属のプラズマ 周波数は可視光よりもずっと高い.

2.2 空洞内の静電場

金属の内部ではいつも静電場はゼロであることは,分かった.それでは金属の内部がくり ぬかれている空洞の場合はどのようになるのだろうか?.図2のようなこ とが考えられる.内部の空洞に電場がある.この場合, $ \div{\boldsymbol{E}}=\rho/\varepsilon$ を満たしている.また,金属中にも電場はない.それ にもかかわらず,このようなことは決して起こらないのである.明らかに,この図の場合 $ \nabla\times \boldsymbol{E}\neq 0$である.図2で示した部分に沿って電場を線積分す るとゼロにはならない.空洞内部に静電場があるという仮定は矛盾することになる.した がって, $ \nabla\times \boldsymbol{E}=0$の要請も入れると,空洞内部の静電場はゼロとなる必要がある. 金属で囲まれた内部は電場ゼロなのである.ただし,これは静電場のみで,振動する電磁場の 場合は,内部に電場ができる.加速器の空洞の原理である.

金属で囲まれた内部には,外部の静電場が侵入することができず,いつでも電場はゼロで ある.ノイズから機器を遮蔽するために,金属で覆うのはこのためである.静電場のみな らず,高周波の電磁場も侵入できない.完全に囲まれた空洞内部は電磁場がまったくない, 静かな世界となる.逆に,電磁場のソースが空洞内部にあると,それはまったく外に漏れ ない.外部にノイズを出さないように,金属で覆う理由となっている.

図 2: 空洞内部に静電場は決してできない.
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/cavity.eps}
コーヒーブレイク 余談であるが,金属が光沢があるのは,この自由電子の作用である.光の電場が金属内に 入り込もうとすると,自由電子は非常に早く移動して,それを阻止する.光の電場と同期 して,電子が移動することになる.その移動により新たに電場がつくられ,入射光と反対 方向に電磁波(光)を放射する事になる.これが反射光となり,金属は光沢を持つのである. 一般に光るものは,自由電子がふんだんにあり,電気を通しやすい.

さらにこの自由電子は熱を伝える働きもする.金属の熱伝導率が高いのも,大量に自由電 子があるからである.熱と光と全く異なった現象であるが,同じ自由電子が関与してい るのはおもしろいことである.




ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成18年6月16日


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