7 スカラー場とベクトル場の2階微分

ほとんどの物理法則は,1階微分あるいは2階微分方程式で書かれる.3階の微分方程式な んかお目にかかったことはないし,5階や23階とかも無い.実に不思議なことである.こ こでは,ベクトル演算子を使ったスカラー場とベクトル場の2階微分を考える.

7.1 ベクトル恒等式

ベクトル演算子を使った1階微分は先ほど示したとおりである.2階微分もしばしば現れる ので,それを示しておく.先程述べたようにベクトル演算子も,ベクトルと同じように振 る舞う.そこで,ベクトルに関する式を先に示しておいた方が良いだろう. $ \boldsymbol{A}$ $ \boldsymbol{B}$ をベクトルとして,重要なベクトル恒等式は,

  $\displaystyle \boldsymbol{A}\times\boldsymbol{A}=0$ (19)
  $\displaystyle \boldsymbol{A}\cdot(\boldsymbol{A}\times\boldsymbol{B})=0$ (20)
  $\displaystyle \boldsymbol{A}\cdot(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C})=\boldsymb...
...}\times\boldsymbol{B}) =\boldsymbol{B}\cdot(\boldsymbol{C}\times\boldsymbol{A})$ (21)
  $\displaystyle \boldsymbol{A}\times(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C}) =\boldsy...
...symbol{A}\cdot\boldsymbol{C})-\boldsymbol{C}(\boldsymbol{A}\cdot\boldsymbol{B})$ (22)

である.これらの証明は,各自ベクトル解析の教科書を見よ.

7.2 2階微分

スカラー場を $ \phi$ ベクトル場を $ \boldsymbol{h}$とした場合,ベクトル演算子を使った2階微 分の可能な組み合わせは,次の通りである.

  $\displaystyle \nabla\cdot(\nabla \phi)$ (23)
  $\displaystyle \nabla\times(\nabla \phi)$ (24)
  $\displaystyle \nabla(\nabla\cdot\boldsymbol{h})$ (25)
  $\displaystyle \nabla\cdot(\nabla\times\boldsymbol{h})$ (26)
  $\displaystyle \nabla\times(\nabla\times\boldsymbol{h})$ (27)

これら,全ての組み合わせについて,どうなるか考えよう.

まずは,通常のベクトルの演算で0になるものを探し,その関係を利用して式 (23)〜(27)の演算で0になるものを類推する.以下の ベクトルの演算が0になることは直ちに分かる.

  $\displaystyle \boldsymbol{A}\times(\boldsymbol{A}\phi)=(\boldsymbol{A}\times\boldsymbol{A})\phi=0,$   式(19)$\displaystyle より$ (28)
  $\displaystyle \boldsymbol{A}\cdot(\boldsymbol{A}\times\boldsymbol{B})=0,$   式(20)そのもの (29)

これらの関係から, $ \boldsymbol{A}$$ \nabla $ $ \boldsymbol{B}$ $ \boldsymbol{h}$ とすると

  $\displaystyle \nabla\times(\nabla \phi)=0$ (30)
  $\displaystyle \nabla\cdot(\nabla\times\boldsymbol{h})=0$ (31)

と類推できる.類推ではあるが,これは正しい式である.学生諸君は,成分を計算してこ れが成立することを確認すること.

次にベクトル公式

$\displaystyle \boldsymbol{A}\times(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C}) =\boldsy...
...symbol{A}\cdot\boldsymbol{C})-\boldsymbol{C}(\boldsymbol{A}\cdot\boldsymbol{B})$ (32)

を用いた場合を考える.$ A$$ B$$ \nabla $で置き換え, $ \boldsymbol{C}$ $ \boldsymbol{h}$ とすると,

$\displaystyle \nabla\times(\nabla\times\boldsymbol{h}) =\nabla(\nabla\cdot\boldsymbol{h})-\boldsymbol{h}(\nabla\cdot\nabla)$ (33)

となる.右辺第2項の $ \boldsymbol{h}(\nabla\cdot\nabla)$が変である.この困難を避 けるために,少し技巧的であるが,式(32)を

$\displaystyle \boldsymbol{A}\times(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C}) =\boldsy...
...symbol{A}\cdot\boldsymbol{C})-(\boldsymbol{A}\cdot\boldsymbol{B})\boldsymbol{C}$ (34)

とすればよい.右辺第2項は,ベクトル $ \boldsymbol{C}$とスカラー $ \boldsymbol{A}\cdot\boldsymbol{B}$との積であるため,演算の順序を入れ替えても良い.こ うすると,式(33)は

\begin{equation*}\begin{aligned}\nabla\times(\nabla\times\boldsymbol{h}) &=\nabl...
...a(\nabla\cdot\boldsymbol{h})-\nabla^2\boldsymbol{h} \end{aligned}\end{equation*}

となり,正しそうである.事実,これは正しい式である.成分ごとに,きちん と微分を行えば分かる.

以上で,最初に示した2階の微分のうち,式(24)と (26),(27)の公式を導いた.残りは,特に興 味のあるものは無い.そこで,以上の結果をまとめると

  $\displaystyle \nabla\cdot(\nabla \phi)=\nabla^2\phi=$スカラー場 (36)
  $\displaystyle \nabla\times(\nabla \phi)=0$ (37)
  $\displaystyle \nabla(\nabla\cdot\boldsymbol{h})=$ベクトル場 (38)
  $\displaystyle \nabla\cdot(\nabla\times\boldsymbol{h})=0$ (39)
  $\displaystyle \nabla\times(\nabla\times\boldsymbol{h}) =\nabla(\nabla\cdot\boldsymbol{h})-\nabla^2\boldsymbol{h}=$ベクトル場 (40)

となる.

ここで,$ \nabla^2$ という演算子が現れている.これは,ラプラス演算子と言われるも ので,いろいろな場面で活躍する.これについては,後でのべる.

これまでの話をまとめると,ベクトル演算子$ \nabla $は通常のベクトルの演算 規則が成り立ち,便利である.諸君は,これを上手に使えばよい.もし,その 公式が気になるようであれば,成分に分けて,こつこつと微分をしてみれば良 い.

7.3 注意点

先ほど,ベクトル演算子$ \nabla $は通常のベクトル演算と同様に扱えると述べ たが,注意が必要である.例えば,通常のベクトル公式

$\displaystyle (\boldsymbol{A}\psi)\times(\boldsymbol{A}\phi)=0$ (41)

である. もし, $ \boldsymbol{A}$$ \nabla $と置き換えると

$\displaystyle (\nabla\psi)\times(\nabla\phi)=0$?????? (42)

となる.ベクトル $ \nabla\psi$の方向は$ \psi$に関係するし, $ \nabla\phi$も 同様である.したがって,0になるのは特殊な場合である.

これは,次のように考える.最初の$ \nabla $$ \psi$に作用し,つぎのものは $ \phi$に作用する.したがって,同じ$ \nabla $でも異なるベクトルと考える.

だからと言って, $ \nabla\times\nabla\phi=0$が成り立たないというわけでは ない.この場合,2つの$ \nabla $は同じ$ \phi$に作用する.

ベクトル演算子 $ \nabla $ $ (\partial/\partial x,\,\partial/\partial
y,\,\partial/\partial z)$ としてスカラー積やベクトル積を計算して,勾配や発散,回 転を計算できるのは,カーテシアン座標系のみである.ほかの座標系になると,かなり複 雑になる.詳細は,私のwebページに載せている.

http://www.akita-nct.jp/ yamamoto/study/electromagnetics/coodinate_transform/html/coodinate_trans.html
を参考にせよ.
ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成18年5月26日


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