5 ベクトルの別の表現

5.1 成分を用いた表現

これまでの話で,ベクトルは矢で表されることが分かった.矢で表すと直感的に分かり易 いが,計算には不向きである.そこで,別の表現を考えることにする.図 8のようにその矢の始まりをカーテシアン 2座標系の原点におい て,先端の座標で表すことができる.そうすると,位置ベクトル $ \boldsymbol{r}$の場合,

$\displaystyle \boldsymbol{r}_1=(x_1,y_1,z_1)$ (21)

のような表現が可能であろう.この, $ x_1,\,y_2,\,z_3$をベクトル $ \boldsymbol{r}$の成分,あ るいは射影と言う.我々は3次元(相対論では4次元)の世界に住んでいるので,物理学で取 り扱うベクトル量は3つの成分からなる.
図 8: カーテシアン座標系をつかったベクトルの表現
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/vector_cartesian.eps}

このようにすると,ベクトルの表現は全く便利になる.今までの矢を用いた方法だと,ベ クトル量の計算が大変やっかいである.計算するとなると数値で表すことになるが,長さ と角度みたいな量で表すことになる.2つのベクトル量をそれぞれ長さと角度の数値

$\displaystyle \boldsymbol{A}=(r_A, \theta_A)$ (22)
$\displaystyle \boldsymbol{B}=(r_B, \theta_B)$ (23)

で表現したとする3.これを加算することを考えると,かなり面倒 である.

$\displaystyle \boldsymbol{C}$ $\displaystyle =\boldsymbol{A}+\boldsymbol{B}$    
  $\displaystyle =($長さの表現複雑$\displaystyle ,$   角度の表現複雑$\displaystyle )$ (24)

一方,座長を用いた表現だと

$\displaystyle \boldsymbol{C}$ $\displaystyle =\boldsymbol{A}+\boldsymbol{B}$    
  $\displaystyle =(A_x, A_y, A_z)+(B_x,B_y,B_z)$ (25)
  $\displaystyle =(A_x+B_x, A_y+B_y, A_z+B_z)$ (26)

のように簡単に演算ができる.成分同士を加算すれば良いのである.これは,まったくもっ て便利である!!!!.

ここで,先ほどのカーテシアン座標の各軸に沿った単位ベクトルを導入すると,便利な場 合がある.図9のようにすると,

$\displaystyle \boldsymbol{A}$ $\displaystyle =(A_x, A_y, A_z)$    
  $\displaystyle =A_x\boldsymbol{i}+A_y\boldsymbol{j}+A_z\boldsymbol{k}$ (27)

のように表現できる.ここで, $ \boldsymbol{i}$, $ \boldsymbol{j}$, $ \boldsymbol{k}$が各軸に沿った単位ベクト ルである.

成分を使った表現では,ベクトルの大きさも簡単に計算でき,ピタゴラスの定理より

$\displaystyle \vert\boldsymbol{A}\vert^2=A_x^2+A_y^2+A_z^2$ (28)

となる.
図 9: 単位ベクトル
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/unit_vector.eps}

5.2 方向余弦について

後に,方向余弦と言う話も出てくるので,少し説明をしておく.図 8に示したように成分を使って,ベクトルは表現可能である. ベクトルの大きさを$ r$として,各軸との角度をそれぞれ図10のよ うにすると,

  $\displaystyle r_x=r\cos\alpha$   $\displaystyle r_y=r\cos\beta$   $\displaystyle r_z=r\cos\gamma$ (29)

の関係がある.ここで,$ r$はベクトル $ \boldsymbol{r}$の大きさを表す.これらの $ r\cos\alpha,\,r\cos\beta,\,r\cos\gamma$を方向余弦と言う.
図 10: 方向余弦
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/houkou_yogen.eps}

ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成18年5月26日


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