2 グリーン関数

2.1 ポアソン方程式とグリーン関数

数学的にグリーン関数をきっちり説明するとなると,厳密な定義と論理,計算が求められ厄介そ うである.また,直感的にイメージがつかみにくくなる.ここでは,こんなもんであると いうようなええかげんな話をする.数学的なちゃんとした定義を知りたければ,各自勉強せよ.

1のように,金属空洞の中に電荷が有る状況を考える.電荷は動か ないものとして,その中の静電ポテンシャルを求めよ--というのが問題である.当然こ れは,ポアソン方程式

$\displaystyle \nabla^2\phi=-\frac{\rho}{\varepsilon}$ (1)

を満足する.これを決められた境界条件--金属ではポテンシャルがゼロ--で計算すれば 良い.これは,今まで学習してきた通り.

つぎに,図2のような状況を考える.空洞中の場所 $ \boldsymbol{r}^\prime$にデルタ関数のような電荷が有る場合である.この場合,ポアソン方程 式は

$\displaystyle \nabla^2G(\boldsymbol{r},\boldsymbol{r}^\prime)=-\delta(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime)$ (2)

となる.この $ G(\boldsymbol{r},\boldsymbol{r}^\prime)$がグリーン関数である.このグリーン関数は, ポテンシャルを観測する位置 $ \boldsymbol{r}$と電荷のある位置 $ \boldsymbol{r}^\prime$の関数である.

このグリーン関数が分かると,元のポアソン方程式(1)の解は,

$\displaystyle \phi(\boldsymbol{r})=\int_{V} G(\boldsymbol{r},\boldsymbol{r}^\prime)\frac{\rho(\boldsymbol{r}^\prime)}{\varepsilon} \mathrm{d}V^\prime$ (3)

と書くことができる. $ \boldsymbol{r}^\prime$について積分したため, $ \mathrm{d}V^\prime$とプラ イムの記号がついている.なぜ,これが成り立つか?--疑問に思えるだろう.この結果を 元のポアソン方程式に代入してみる.

$\displaystyle \nabla^2\phi$ $\displaystyle =\nabla^2\int_{V} G(\boldsymbol{r},\boldsymbol{r}^\prime)\frac{\rho(\boldsymbol{r}^\prime)}{\varepsilon}\mathrm{d}V^\prime$    
     $ \nabla$ $ \boldsymbol{r}$の微分, $ \mathrm{d}V^\prime$ $ \boldsymbol{r}\prime$に終の積分なので順序を変えても良いだろう    
  $\displaystyle =\frac{1}{\varepsilon}\int_{V} \nabla^2 G(\boldsymbol{r},\boldsymbol{r}^\prime)\rho(\boldsymbol{r}^\prime)\mathrm{d}V^\prime$    
  $\displaystyle =-\frac{1}{\varepsilon}\int_{V}\delta(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime) \rho(\boldsymbol{r}^\prime)\mathrm{d}V^\prime$    
  $\displaystyle =-\frac{\rho(\boldsymbol{r})}{\varepsilon}$ (4)

式(3)は,ポアソン方程式の解になっているのである.

これの何がうれしいの?--と言う疑問があるだろう.これは,境界のみで決まる方程式 (2)の解 $ G(\boldsymbol{r},\boldsymbol{r}^\prime)$が分かれば,内部にどの ように電荷が分布 $ \rho(\boldsymbol{r})$しようとも,積分を行うだけで,内部のポテンシャルが 分かると言っているのである.あとで分かるがかなり便利である.

そもそもこのようなことが,言えるのはラプラス演算子が線形演算子になっているからで ある.式(4)までで,線形演算子といことを使っている.ど こだろうか?--捜してみよ.

図 1: ポアソン方程式の状況
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/poisson_eq.eps}
図 2: グリーン関数の状況
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/green.eps}

2.2 もう少し一般的に

2.2.0.1 イメージ

なにも,グリーン関数はポアソン方程式に限らない.もう少しまともに,グリーン関数を 定義しよう.線形演算子 $ \mathcal{L}$を作用した微分方程式

$\displaystyle \mathcal{L}\Psi(x)=-f(x)$ (5)

を考える.$ \Psi(x)$が求めたい方程式で,$ f(x)$は既知の関数である.$ f(x)$の前にマ イナス符号がついている理由は,電磁気学で現れる方程式にあわせているためである.ポ アソン方程式も,つぎに学習するソースの有る波動方程式もマイナス符号がついている. ただし,一般的にはプラスでもさしつかいない.この微分方程式の解は,

$\displaystyle \Psi(x)=\int G(x,x^\prime)f(x^\prime)\mathrm{d}x^\prime$ (6)

と書ける.このように解を書いたときに $ G(x,x^\prime)$がグリーン関数である.このグ リーン関数を求めるためにはどうすればよいだろうか?.そのためには,解の式の両辺に 線形演算子 $ \mathcal{L}$を作用させる.左辺は,

$\displaystyle \mathcal{L}\Psi(x)=-f(x)$ (7)

となる.右辺は,

$\displaystyle \mathcal{L}\int G(x,x^\prime)f(x^\prime)\mathrm{d}x^\prime= \int \mathcal{L}\left[G(x,x^\prime)\right]f(x^\prime)\mathrm{d}x^\prime$ (8)

である.式(7)と式(8)の右 辺は,もともと式(6)の両辺から導いたものなので,等しい. すなわち,

$\displaystyle -f(x)=\int \mathcal{L}\left[G(x,x^\prime)\right]f(x^\prime)\mathrm{d}x^\prime$ (9)

である.これから,

$\displaystyle \mathcal{L}G(x,x^\prime)=-\delta(x-x^\prime)$ (10)

でなくてはならないことが分かる.これがグリーン関数を求めるときの微分方程式である. この微分方程式が成り立てば,式(6)は式 (5)の解となっている.

2.2.0.2 グリーン関数の検査

ある関数がグリーン関数になっているか否か?--調べたい.もちろん,微分方程式 (10)を満足していれば良い.左辺は微分なので計算でき る.したがって,最初の条件は $ x\neq x^\prime$以外では,

$\displaystyle \mathcal{L}G(x,x^\prime)=0$   ただし,$\displaystyle \quad x\neq x^\prime$ (11)

となればよい.残りは, $ x=x^\prime$のときである.この場合, $ \delta(x-x^\prime)$ は無限大になってしまい,取扱いができない.そこで,式 (10)を積分した

$\displaystyle \int\mathcal{L}G(x,x^\prime)\mathrm{d}x= \begin{cases}0 & x=x^\prime\,\text{を含まない場合}\\ -1 & x=x^\prime\,\text{を含む場合} \end{cases}$ (12)

が第二の条件となる.

本当は式(6)で定義されたグリーン関数が一意に決まることを 示さなくてはならないが,それは数学の教科書に任せる.それよりも,諸君はグリーン関 数の大まかな意味を知り,使いこなすことが重要である.

2.3 グリーン関数の例

いろいろな場面でグリーン関数は使われる.先に示したポアソン方程式を解くときのグリー ン関数は,

  $\displaystyle \nabla^2G(\boldsymbol{r},\boldsymbol{r}^\prime)=-\delta(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime)$   $\displaystyle \Rightarrow$   $\displaystyle G(\boldsymbol{r},\boldsymbol{r}^\prime)=\frac{1}{4\pi\vert\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime\vert}$   (13)

である.他にもいろいろあるが,書いている時間が無い.自分で調べてみよ.
ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成18年9月24日


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