2 フーリェ級数

2.1 三角関数を用いた展開

前々回の講義で,任意の関数を冪級数で展開(テイラー展開)した.ここでは,もっとけっ たいなことを考えて三角関数で展開してみよう.すなわち,

$\displaystyle f(x)$ $\displaystyle =\frac{a_0}{2}+a_1\cos x+a_2\cos 2x+a_3\cos 3x+\cdots +b_1\sin x+b_2\sin 2x+b_3\sin 3x+\cdots$    
  $\displaystyle =\frac{a_0}{2}+\sum_{n=1}^{\infty}(a_n\cos nx+b_n\sin nx)$ (1)

と展開する.最初の項は$ \cos 0x=1$のため定数となり,$ a_0/2$がその係数である.なんで, 2で割るの???--というツッコミもあるだろう.$ a_0$としておいても良いが,あとで $ a_0/2$とした方が便利なことがある.今は分からないで良いが,取り合えずこういうも のだと思って,悩まないで欲しい.

この展開式を見て諸君は,展開の係数$ a_n$$ b_n$をもとめることに興味があるだろう.そ れをぐっと我慢して,まず関数$ f(x)$の右辺の性質を考えることにしよう.関数$ f(x)$は,$ 2\pi$ の周期性という重要な性質がある.定数項である$ a_0/2$は, $ x\rightarrow x+2\pi$としても値は変わらいない.三角関数の項も, $ x\rightarrow
x+2\pi$としても値は変わらない.なぜならば,

  $\displaystyle \cos x=\cos(x+2\pi)$   $\displaystyle \cos 2x=\cos2(x+2\pi)$   $\displaystyle \cos 3x=\cos3(x+2\pi)$   $\displaystyle \cdots$      
  $\displaystyle \sin x=\sin(x+2\pi)$   $\displaystyle \sin 2x=\sin2(x+2\pi)$   $\displaystyle \sin 3x=\sin3(x+2\pi)$   $\displaystyle \cdots$   (2)

となるからである.すなわち式(1)は,

$\displaystyle f(x)=f(x+2\pi)$ (3)

となっている.式(1)のどんな$ x$であろうとも,この関係は成り 立つ.いかなる$ x$$ 2\pi$を加えても関数の値はいつも同じ--ということをしめしてい る.これを繰り返すと,どんな$ x$に対しても

$\displaystyle \cdots=f(x-4\pi)=f(x-2\pi)=f(x)=f(x+2\pi)=f(x+4\pi)=\cdots$ (4)

が得られる.明らかに$ 2\pi$の周期性がある.これって,どういう意味?--と考える者も いるだろう.これって,図1のような意味である.関数が$ 2\pi$ で繰り返していることを示している.これが$ 2\pi$の周期性の意味である.
図 1: $ 2\pi$を周期とする関数
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.8]{figure/periodic_func.eps}

式(1)の$ f(x)$は,$ 2\pi$を周期とした任意の関数である.任意 の周期関数は,三角関数の和で表すことができる--と言っている.このように周期関数 を三角関数の和で表すことを,フーリェ級数3(Fourier series)と言う.別の考え方 をすると,区間の幅が$ 2\pi$,例えば $ [-\pi,\pi]$のどんな関数でも三角関数の和で表す ことができると式(1)は言っている.テイラー展開は任意の関数 を冪乗の和で表したが,フーリェ級数は三角関数の和で表す.

フーリェ級数の何がうれしいの?--とツッコミを入れるひともいるだろう.世の中のどん な周期関数でも三角関数の和で表すことができる--ということ自体,驚くべきことで, 非常に興味深い.実用的な面--工学--を考えると「どんな周期関数でも三角関数を使っ て計算できる」ということは便利この上ない.諸君がよく知っている三角関数の知識で, 図1のようなけったいな関数の解析ができるのである.後で述べ ることになるが,不連続な関数も取り扱うことができる.そのため,フーリェ解析は工学 の諸問題のいたるところで,出現する.交流回路の理論の底には,フーリェ解析があり, 諸君は知らないうちにそれを使っている.電気回路4に 限らずフーリェ解析は線形微分方程式を解くための極めて強力な武器なので,物理学や工 学において光や音,振動の問題にひろく利用されている.近年では,コンピュータグラ フィックスなど分野でもお目にかかる.諸君もフーリェ解析という強力な武器を手に入れ よう.

2.2 フーリエ係数

任意の周期関数をフーリェ級数を使って解析するためには,式 (1)の三角関数の係数--フーリェ係数--$ a_n$$ b_n$を 計算する必要がある.さあ,どうするか?. -4pt 今までの方法は無理である.先人たちは,教科書 [1]p.222の(2)式の積分 を使ってフーリェ係数を求めた.

2.2.1 準備

フーリェ係数を計算する前に,それに必要な積分を示しておく.$ m$$ n$を自然数として, コサインの積を計算する.

$\displaystyle \int_{-\pi}^{\pi}\cos nx\cos mx$ $\displaystyle =\int_{-\pi}^{\pi}\left(\frac{e^{inx}+e^{-inx}}{2}\right) \left(\frac{e^{imx}+e^{-imx}}{2}\right)\,\mathrm{d}x$    
  $\displaystyle =\int_{-\pi}^{\pi}\frac{e^{i(n+m)x}+e^{-i(n+m)x}+e^{i(n-m)x}+e^{-i(n-m)x}}{4}\,\mathrm{d}x$    
  $\displaystyle =\frac{1}{2}\int_{-\pi}^{\pi}\left[\cos(n+m)x+\cos(n-m)x\right]\,\mathrm{d}x$    
  $\displaystyle =\begin{cases}\frac{1}{2}\left[\frac{\sin(n+m)x}{n+m}+x\right]_{\...
...n(n+m)x}{n+m}+\frac{\sin(n-m)x}{n-m}\right]_{\pi}^{-\pi} & (n\ne m) \end{cases}$    
  $\displaystyle =\begin{cases}\pi & (n=m)\\ 0 & (n \ne m) \end{cases}$ (5)

同じことをサインの積に対して行うと,

$\displaystyle \int_{-\pi}^{\pi}\sin nx\sin mx\,\mathrm{d}x =\begin{cases}\pi & (n=m)\\ 0 & (n \ne m) \end{cases}$ (6)

が得られる.残りは,サインとコサインの積である.これは簡単で,$ \sin nx$は奇関数, $ \cos mx$は偶関数である.その積は奇関数となる.したがって,

$\displaystyle \int_{-\pi}^{\pi}\sin nx\cos mx\,\mathrm{d}x=0$ (7)

となる.もうひとつ,次の積分

$\displaystyle \int_{-\pi}^{\pi}\sin nx\,\mathrm{d}x = \int_{-\pi}^{\pi}\cos nx\,\mathrm{d}x = 0$ (8)

も使う.これで,フーリエ係数を計算する準備ができた.

2.2.2 $ a_0$の計算

$ a_0$を計算するためには,式(1)を区間 $ [-\pi,\pi]$で積分を行 う.

$\displaystyle \int_{-\pi}^{\pi}f(x)\,\mathrm{d}x$ $\displaystyle =\frac{a_0}{2}\int_{-\pi}^{\pi}\,\mathrm{d}x +\sum_{n=1}^{\infty}...
...pi}^{\pi}\cos nx\,\mathrm{d}x +b_n\int_{-\pi}^{\pi}\sin nx\,\mathrm{d}x\right\}$    

                式(8)を使うと


  $\displaystyle =a_0\pi$ (9)

これより,

$\displaystyle a_0=\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\,\mathrm{d}x$ (10)

を計算することにより,$ a_0$を求めることができる.これで,係数のひとつが求まった.

この式をよく見ると,$ a_0/2$$ f(x)$の平均値となっている.電気回路では,この平均 値のことを直流成分と言う.

2.2.3 $ a_n$$ b_n$計算

式(1)の両辺に$ \cos mx$を乗じて区間 $ [-\pi,\pi]$で積分を行う-- ことにより,コサインの係数の$ a_n$を求める.ただし,$ m$は自然数とする.

$\displaystyle \int_{-\pi}^{\pi}f(x)\cos mx\,\mathrm{d}x$ $\displaystyle =\frac{a_0}{2}\int_{-\pi}^{\pi}\cos mx\,\mathrm{d}x +\sum_{n=1}^{...
...nx\cos mx\,\mathrm{d}x +b_n\int_{-\pi}^{\pi}\sin nx\cos mx\,\mathrm{d}x\right\}$    

                式(8)と (5),(7)を使うと


  $\displaystyle =a_m\pi$ (11)

これより,

$\displaystyle a_m=\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\cos mx\,\mathrm{d}x$ (12)

を計算することにより,$ a_m$を求めることができる.ここで,$ m=0$の場合を考える.そ うすると,式(10)と同一の式が得られる.したがって,式(10)は 式(12)に吸収され,不要となる.これが,フーリエ級数の最初の項を$ a_0$と しないで,$ a_0/2$とした理由である.

つぎに,$ b_n$を求めるために,式(1)の両辺に$ \sin mx$を乗じ て区間 $ [-\pi,\pi]$で積分を行う.

$\displaystyle \int_{-\pi}^{\pi}f(x)\sin mx\,\mathrm{d}x$ $\displaystyle =\frac{a_0}{2}\int_{-\pi}^{\pi}\sin mx\,\mathrm{d}x +\sum_{n=1}^{...
...nx\sin mx\,\mathrm{d}x +b_n\int_{-\pi}^{\pi}\sin nx\sin mx\,\mathrm{d}x\right\}$    

                式(8)と(7),(6)を使うと


  $\displaystyle =b_m\pi$ (13)

これより,

$\displaystyle b_m=\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\sin mx\,\mathrm{d}x$ (14)

を計算することにより,$ b_m$を求めることができる.

2.3 収束について

式(1)の両辺が等号で結ばれるためには, $ n\rightarrow\infty$の 時左辺が$ f(x)$に収束することを証明しなくてはならない.教科書 [1]の p.311-315ページにその証明が載っている.この講義に時間的な余裕があれば,後で証明 する.興味のある者は,自分で勉強せよ.
ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成18年12月1日


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