2 マクスウェルの方程式から、ヘルムホルツ方程式へ

2.1 マクスウェルの方程式

電磁現象を記述する微分方程式は、マクスウェルの方程式と呼ばれ

  $\displaystyle \div{\boldsymbol{D}}=\rho$ (1)
  $\displaystyle \div{\boldsymbol{B}}=0$ (2)
  $\displaystyle \nabla\times \boldsymbol{H}=\boldsymbol{j}+ \if 11 \frac{\partial...
...bol{D}}{\partial t} \else \frac{\partial^{1} \boldsymbol{D}}{\partial t^{1}}\fi$ (3)
  $\displaystyle \nabla\times \boldsymbol{E}=- \if 11 \frac{\partial \boldsymbol{B}}{\partial t} \else \frac{\partial^{1} \boldsymbol{B}}{\partial t^{1}}\fi$ (4)

と書かれる4組の連立の微分方程式である。ここで、
記号 物理量 単位 スカラー/ベクトル
$ \boldsymbol{D}$ 電束密度 [ $ \mathrm{C/m^2}$] ベクトル 
$ \boldsymbol{B}$ 磁束密度 [T]あるは[ $ \mathrm{Wb/m^2}$] ベクトル
$ \boldsymbol{H}$ 磁場(の強さ) [ $ \mathrm{A/m}$] ベクトル
$ \boldsymbol{E}$ 電場(の強さ) [ $ \mathrm{V/m}$] ベクトル
$ \rho$ 電荷密度 [ $ \mathrm{C/m^3}$] スカラー
$ \boldsymbol{j}$ 電流密度 [ $ \mathrm{A}/\mathrm{m^2}$] ベクトル

である。物質中では、

  $\displaystyle \boldsymbol{D}=\varepsilon\boldsymbol{E}$ (5)
  $\displaystyle \boldsymbol{B}=\mu\boldsymbol{H}$ (6)
  $\displaystyle \boldsymbol{j}=\sigma\boldsymbol{E}$ (7)

という関係で結びつけられている。ここで、 $ \varepsilon$は誘電率、$ \mu$は透磁率、 $ \sigma$導電率である。これらの量は、一般 2には2階のテンソルになる。

2.2 ヘルムホルツの方程式

ヘルムホルツ方程式は、楕円型の微分方程式で

$\displaystyle \nabla^2 u+ku=0$ (8)

の形のものを言う。$ u$はベクトルの場合とスカラーの場合がある。ここでは、真空で何もない 空間の電磁場の方程式が、この形になることを示す。ようするに、マクスウェルの方程 式に何もない空間(真空)と言う条件を課して、ヘルムホルツ方程式を導くのである。

まずは、何もない真空の空間ではあるが、そこには電磁場は存在する。しかし、 電荷や電流は存在しないものとする。従って

  $\displaystyle \rho=0$ (9)
  $\displaystyle \boldsymbol{j}=0$ (10)
  $\displaystyle \sigma=0$ (11)

となる。また、真空中では誘電率や透磁率は一定で、それらは $ \varepsilon_0,\mu_0$と 書き表すことにする。これら、真空中という条件をまとめると、マクスウェルの方程式は、

  $\displaystyle \div{\boldsymbol{E}}=0$ (12)
  $\displaystyle \div{\boldsymbol{H}}=0$ (13)
  $\displaystyle \nabla\times \boldsymbol{H}= \varepsilon_0 \if 11 \frac{\partial ...
...bol{E}}{\partial t} \else \frac{\partial^{1} \boldsymbol{E}}{\partial t^{1}}\fi$ (14)
  $\displaystyle \nabla\times \boldsymbol{E}=-\mu_0 \if 11 \frac{\partial \boldsymbol{H}}{\partial t} \else \frac{\partial^{1} \boldsymbol{H}}{\partial t^{1}}\fi$ (15)

となる。これは、電場と磁場の連立微分方程式である。

これをそのまま計算するのは大変なので、電場、あるいは磁場のみの式に直す。そのため に、式(14)の両辺に回転の演算子を作用させる。すると、

$\displaystyle \nabla\times \nabla\times \boldsymbol{H}=\varepsilon_0\nabla\time...
...bol{E}}{\partial t} \else \frac{\partial^{1} \boldsymbol{E}}{\partial t^{1}}\fi$ (16)

となる。この式の左辺はベクトル恒等式と式(13)を用いると

$\displaystyle \nabla\times \nabla\times \boldsymbol{H}$ $\displaystyle =\nabla \div{\boldsymbol{H}}-\nabla^2\boldsymbol{H}$    
  $\displaystyle =-\nabla^2\boldsymbol{H}$ (17)

と変形できる。一方、式(16)の右辺は時間と空間の微分である回転を入 れ替え、式(15)を用いると、

$\displaystyle \varepsilon_0\nabla\times \if 11 \frac{\partial \boldsymbol{E}}{\partial t} \else \frac{\partial^{1} \boldsymbol{E}}{\partial t^{1}}\fi$ $\displaystyle =\varepsilon_0 \if 11 \frac{\partial }{\partial t} \else \frac{\partial^{1} }{\partial t^{1}}\fi (\nabla\times \boldsymbol{E})$    
  $\displaystyle =\varepsilon_0 \if 11 \frac{\partial }{\partial t} \else \frac{\p...
...\partial t} \else \frac{\partial^{1} \boldsymbol{H}}{\partial t^{1}}\fi \right)$    
  $\displaystyle =-\varepsilon_0\mu_0 \if 12 \frac{\partial \boldsymbol{H}}{\partial t} \else \frac{\partial^{2} \boldsymbol{H}}{\partial t^{2}}\fi$ (18)

となる。これら、左辺と右辺の結果の式(17), (18)から、式(16)は

$\displaystyle \nabla^2\boldsymbol{H}-\varepsilon_0\mu_0 \if 12 \frac{\partial \...
...{H}}{\partial t} \else \frac{\partial^{2} \boldsymbol{H}}{\partial t^{2}}\fi =0$ (19)

と書き直せる。これが、磁場を表す微分方程式である。この式は、空間の2回微分と時間 の2回微分の項が現れており、波動方程式になっている。この式は、何もない空間で時間 変化する電磁場は波になっていると言っているのである。波であれば、その速度があり、 この式から電磁場の伝搬速度$ c$は、

$\displaystyle c=\frac{1}{\sqrt{\varepsilon_0\mu_0}}$ (20)

が分かる。この$ c$は光速を示し、電磁場の伝搬速度速度である。驚いたことに、誘電率 $ \varepsilon_0$と透磁率$ \mu_0$が光速と関係しているのである。

時間変化する波を解析する場合、周波数に分解して考えるのは常套手段である。ここでは、 それをフーリエ解析を用いて丁寧に示すことにする。ここの磁場$ H$は、時間と空間の関 数である。そして、時間の関数は変数分離できることは直感的に理解できる。したがって、 磁場は

$\displaystyle \boldsymbol{H}(\boldsymbol{r},t)=\boldsymbol{H}(\boldsymbol{r})f(t)$ (21)

と書き表せるだろう。そして、この時間の項$ f(t)$をフーリエ変換すると

$\displaystyle g(\omega)= \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int_{-\infty}^{\infty}f(t)e^{i\omega t}dt$ (22)

となる。この$ g(\omega)$を用いて、フーリエ逆変換することにより、時間の項は

$\displaystyle f(t)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}} \int_{-\infty}^{\infty}g(\omega)e^{-i\omega t}d\omega$ (23)

と表せる。これで、式(19)をヘルムホルツ方程式に直す準備 は整った。

波動方程式(19)の磁場$ H(vm{r})$の項を変数分離して、その 時間の項をフーリエ解析で処理すれば、目的のヘルムホルツ方程式が得られる。まずは、 式(19)を式(21)を用いて、 変数分離すると、

  $\displaystyle \nabla^2\left[\boldsymbol{H}(\boldsymbol{r})f(t)\right]- \frac{1}...
...tial^{2} }{\partial t^{2}}\fi \left[\boldsymbol{H}(\boldsymbol{r})f(t)\right]=0$    
     時間と空間の微分を分けると    
  $\displaystyle f(t)\nabla^2\left[\boldsymbol{H}(\boldsymbol{r})\right]- \boldsym...
...}{\partial t} \else \frac{\partial^{2} }{\partial t^{2}}\fi \left[f(t)\right]=0$ (24)

と書き表すことができる。この式に、フーリエ解析の式(23)を適用す ると、

$\displaystyle \frac{1}{\sqrt{2\pi}} \int_{-\infty}^{\infty}g(\omega)e^{-i\omega...
...{\infty}g(\omega)e^{-i\omega t}d\omega \boldsymbol{H}(\boldsymbol{r}) \right]=0$ (25)

となる。時間の2階微分は、 $ (-i\omega)^2$がでるため、

$\displaystyle \frac{1}{\sqrt{2\pi}} \int_{-\infty}^{\infty}g(\omega)e^{-i\omega...
...infty}^{\infty}g(\omega)e^{-i\omega t}d\omega \boldsymbol{H}(\boldsymbol{r}) =0$ (26)

と書き表せる。積分の項は同じなので、両辺をそれで割ると、

$\displaystyle \nabla^2\boldsymbol{H}(\boldsymbol{r}) +\left(\frac{\omega}{c}\right)^2 \boldsymbol{H}(\boldsymbol{r}) =0$ (27)

とヘルムホルツ方程式が得られる。ここで、この微分方程式の解である $ \boldsymbol{H}(\boldsymbol{r})$ を固有関数、 $ \left(\frac{\omega}{c}\right)^2$を固有値と言う。

電場の場合も全く同様にして求められる。電場の場合は

$\displaystyle \nabla^2\boldsymbol{E}(\boldsymbol{r}) +\left(\frac{\omega}{c}\right)^2 \boldsymbol{E}(\boldsymbol{r}) =0$ (28)

となる。

ヘルムホルツ方程式は、時間の微分が入らないため、計算がきわめて簡単になる。この2 階の微分方程式を適当な境界条件を課して、解けば電磁場が分かる。これは、モードに分 けて計算しているので、時間の項は全て $ e^{-i\omega t}$がかかることになる。この辺の 話は、また機会があるときにする。


ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年8月20日


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