4 CR発振回路

この回路は,3年生の実験実習の「発振回路 」で,実際に実験を行った回路である.ここでは,実験ではなく,計算機シミュレーショ ンで発振する事を確かめる.

4.1 回路の理論

3年生の実験実習の「発振回路 」では,図3の回路の実験を行った.
図 3: CR発振回路.バイアスやトランジスタ駆動用の電源は省いている.
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.2]{figure/CR_osc_0.eps}
この回路のままだと,計算が大変なので,トランジスターをhパラメーターを用いて表現 する.それは,図4のようになる.これを,1周にわたって閉回路の電 位差を足しあわせるとゼロになるというキルヒホッフの第2法則を表現しやすいように表 したものが図5である.それぞれの図の回路は全く同じであることに注 意せよ.

図 4: hパラメーターを用いた等価回路
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.2]{figure/CR_osc_1.eps}
図 5: 書き直した等価回路
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.2]{figure/CR_osc_2.eps}
5にしたがい回路に流れる電流が満たす微分方程式を求める.まず, キルヒホッフの法則から,

\begin{equation*}\begin{aligned}&(I_0-I_1)R-\frac{1}{C}\int_0^tI_1dt+(I_2-I_1)R=...
...\\ &(I_2-I_3)R-\frac{1}{C}\int_0^tI_3dt-I_3h_{ie}=0 \end{aligned}\end{equation*}

が成り立つことがわかる.言うまでもないが,回路の電流 $ I_0,I_1, I_2, I_3$が時間の 関数である.このままでは,ルンゲ・クッタ法で計算するのは困難なので,これらの式を 時間で微分する.すると

\begin{equation*}\begin{aligned}&\left(\frac{dI_0}{dt}-\frac{dI_1}{dt}\right)R- ...
...{dt}\right)R- \frac{I_3}{C}-h_{ie}\frac{dI_3}{dt}=0 \end{aligned}\end{equation*}

となる.このままだと,式が3個で未知数が4個なので,解くことができない.ここで,ト ランジスターのhパラメーターを導入する.トランジスターの特性より

$\displaystyle I_0=-h_{fe}I_3$ (12)

となる.すると,解くべき式は,

\begin{equation*}\begin{aligned}&\left(-h_{fe}\frac{dI_3}{dt}-\frac{dI_1}{dt}\ri...
...{dt}\right)R- \frac{I_3}{C}-h_{ie}\frac{dI_3}{dt}=0 \end{aligned}\end{equation*}

である.これが,回路の電流を表す微分方程式である.

これらの連立の微分方程式を4次のルンゲクッタ法で計算すれば良いのであるが,もう少 し変形する必要がある. $ dI/dt=f(I,t)$のような,形にする.これは,連立方程式な ので,変形は面倒であるが可能である.計算し易いように変形3すると

\begin{equation*}\begin{aligned}\frac{dI_1}{dt}&= -\frac{(2h_{ie}+R)I_1+(h_{ie}-...
...}{dt}&= -\frac{I_1+2I_2+3I_3}{C(3h_{ie}+R+h_{fe}R)} \end{aligned}\end{equation*}

となる.

4.2 計算条件

常微分方程式を以下の条件で計算せよ.トランジスターの特性については,私は素人で全 く知らないので,適当に仮定している.それでも,発振の基本的なメカニズムは分かるで あろう.

図 6: 1次関数で増幅率が変化
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.85]{figure/linear_amp.eps}
図 7: ガウス分布で増幅率が変化
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.85]{figure/gauss_amp.eps}

これを計算する場合のヒントを与えておく.発振の成長は,種信号の増幅の繰り返しであ る.実際の発振器の種信号は,熱雑音であったり,スイッチのON/OFFのノイズであったり する.計算機でシミュレーションする場合,それは,$ I_1(0)$または$ I_2(0)$$ I_3(0)$ のいずれかの一つに非常に小さい値を与えれば良い.そして,残りの2つは,ゼロとして おく.

CR発振回路の詳細については,私のホームページの講義ノート(2003年度の実験)を見よ. CR発振回路の発振周波数は

$\displaystyle f=\frac{1}{2\pi\sqrt{6}CR}$ (17)

である.また,発振条件は,トランジスターの入力インピーダンスを$ h_{ie}=0$とした場 合,

$\displaystyle h_{fe}> 29$ (18)

である.
ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年10月18日


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