2 ベクトルの基本

2.1 ベクトルとは

長さや面積,あるいは質量,温度,時間,エネルギーなどは,大きさだけを持っている量 である.これらの量は単位を決めれば,それらの何倍かという数値だけで完全に表現でき る.これらの量をスカラー量と呼ぶ.

それに対して,変位や速度,加速度,力,運動量などは大きさだけでは表すことができな い.大きさに加えて,その方向を示して,はじめて完全に表現できる.このように大きさ と方向を持つ量をベクトル量という.位置ベクトルというものも,原点を決めてそこから の変位を表している.位置を表す量もベクトルである.

ベクトル量は便宜的に,一本の矢で表すことができる.矢の長さがその大きさを示し,先 端の向きで方向を表す.例えば,図2 $ \boldsymbol{A}$のようにである. ベクトルの大きさは $ \vert\boldsymbol{A}\vert$と表現して,図では矢の長さで示す.通常絶対値と言うも のは,原点からの距離を示す(複素数の場合でも)ので,ここで同じ記号が用いられるの ももっともである.当然,これはスカラー量である.ベクトルをその大きさで割った量は,ベクトル で $ \boldsymbol{A}/\vert\boldsymbol{A}\vert$と表現され,これは大きさが1の単位ベクトルとなる.単位ベクトル の大きさが1になることは,各自確かめよ.また,大きさがゼロのベクトルも存在して, それはゼロベクトルと呼ばれ $ \boldsymbol{0}$と書かれる.

一般にベクトル量は $ \boldsymbol{A}$のようにボールド書体で,スカラー量は$ A$のようにノーマ ル書体で書かれる.今後,この授業ではこのように表現してする.

図 2: 矢で表現したベクトル
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/vector_arrow.eps}



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著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成18年5月26日


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