3 静磁場の基本法則

この辺をきちんとすると,かなりの数式を羅列する事になってしまう.そこで,ここでは 教科書に沿って,直感的なイメージを大切にして,説明する.

3.1 磁場に関するガウスの法則

定常電流の作る磁場を実験でいろいろ調べてみると,図6のようになっていることが 分かった7.ちょうど,電流が流れる方向とねじの方向を一致させると,磁場の方 向は右ねじの回転方向と一致する.これを右ねじの法則といい,電流と磁場の方向を示し ている.
図 6: 磁場
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.7]{figure/define_B.eps}

1本の長い電線が作る磁場を考えよう.磁場は,電線の 周りに回転としてできる.このような場合,どのような微小の体積を考えても, その発散はゼロである.要するに,どんな部分をとっても,入ってくる磁場の フラックスと出て行くフラックスは等しい.すなわち,

$\displaystyle \int_S \boldsymbol{B}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S=0$ (6)

である.これは,たとえ,電線を取り囲んだ体積を考えても,そうなる.この左辺は,ガ ウスの発散定理

$\displaystyle \int_S \boldsymbol{B}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S=\int_V\div{\boldsymbol{B}}\mathrm{d}V$ (7)

が成立する.したがって,

$\displaystyle \int_V\div{\boldsymbol{B}}\mathrm{d}V=0$ (8)

である.これはいかなる領域でも成立するので,

$\displaystyle \div{\boldsymbol{B}}=0$ (9)

となる.磁場の発散はなく,必ず磁場は元に戻ることを言っている.

電場の場合は,電荷から電気力線が出ていて,どこか無限遠点に行くか,反対の電荷に吸 収されていた.磁場の場合,磁力線は閉じた線である.このことは,電荷に相当する磁荷 は無いと言っている.

3.2 積分形のアンペールの法則

前節の結果から,磁場の発散は分かった.磁場を決めるためには,回転を求める必要があ る.そのために,図7のような経路で積分を行う.電流は無限に長い 直線とする.この場合の磁場は,式(5)を使え ばよい.半径$ R$での線積分は

\begin{equation*}\begin{aligned}\oint\boldsymbol{B}\cdot d\ell &=\oint\frac{\mu_...
...mu_0}{2\pi}\frac{I}{R}R\mathrm{d}\theta\\ &=\mu_0 I \end{aligned}\end{equation*}

となる.この結果は,磁場が直線電流からの距離の$ 1/R$に比例することから, 容易に予想できる結果である.重要なことは,直線電流からある距離離れた磁 場の線積分は,距離に依存しないことである.

これは,ガウスの法則,点電荷の作る電場の面積分が,距離に依存しないのと同じである. この場合も,最初,球の中心に点電荷を置き,一般的に閉じた面で成り立つことを示した. 同じことを,ここでも行う.次に,積分路を図8のように変形させると, $ \delta\boldsymbol{\ell}=\delta\boldsymbol{t}+\delta\boldsymbol{r}+\delta\boldsymbol{z}$と書くことができる.磁場 の方向,すなわち $ \boldsymbol{I}\times\boldsymbol{R}$の方向は,$ \delta t$に平行で,$ \delta r$$ \delta z$には垂直となる.したがって,積分は先ほどと同じで,

\begin{equation*}\begin{aligned}\oint\boldsymbol{B}\cdot \mathrm{d}\ell &=\oint\...
...i}\frac{\mu_0}{2\pi}\frac{I}{r}rd\theta\\ &=\mu_0 I \end{aligned}\end{equation*}

となる.図9のように積分路を変更しても同じである.これまで の結果から,閉じた線路での積分はいつも同じ値になることが分かる.

図 7: 積分範囲が円
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.9]{figure/int_circle.eps}
図 8: 同一円筒での積分
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.9]{figure/int_same_cylinder.eps}
図 9: 同一面での積分
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.9]{figure/int_same_plain.eps}

今までは,1本の直線電流であったが,磁場は重ねあわせができるので,複数本でも成り 立つ.あるいは,電流がデルタ関数のように離散的ではなく,連続的な分布,密度 $ \boldsymbol{j}$として存在する場合も成り立つ.これらは,磁場が重ね合わせの原理が成り立 つからである.さらに,証明はしなかったが電流が曲線であっても成立する.このことか ら,

$\displaystyle \oint\boldsymbol{B}\cdot \mathrm{d}\boldsymbol{\ell}=\int_S\mu_0 \boldsymbol{j}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S$ (12)

が成り立つ.これを積分形のアンペールの法則と言う.右辺は,線積分を囲む電流の総和 になっていることに注意が必要である.

ところで,この積分の外側の電流の寄与はどうなるのであろうか?.外側の電流であろう とも,この積分路には磁場を発生させる.結論を先に言うと,

である.このことは,電荷でやったのと同じことを行えばよい.図 12の通りである.

図 10: 任意の場合の積分路
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.9]{figure/int_arb_line.eps}
図 11: 複数の導線が積分路を貫く場合
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.9]{figure/int_sum_current.eps}
図 12: 積分路の外側に電流が在る場合
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.9]{figure/int_outside_current.eps}

3.3 微分形のアンペールの法則

諸君は,ストークスの定理を知っている.それを使うと,式(12) の左辺は,

$\displaystyle \oint\boldsymbol{B}\cdot \mathrm{d}\boldsymbol{\ell}=\int_S\nabla\times \boldsymbol{B}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S$ (13)

となる.これから,積分形のアンペールの法則は,

$\displaystyle \int_S\nabla\times \boldsymbol{B}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S=\int_S\mu_0 \boldsymbol{j}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S$ (14)

と書き改められる.この式は,任意の面で成り立つ.そのためには,

$\displaystyle \nabla\times \boldsymbol{B}=\mu_0 \boldsymbol{j}$ (15)

となる必要がある.これがアンペールの法則の微分形である.全てが場の量となっている ので,理論的には扱いやすくなる.

このアンペールの法則の言っていることは,電流が磁場の回転を作っている.


ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成18年6月22日


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