5 波動方程式

5.1 変数分離法

6に示すように$ x$軸と垂直な弦の振動の方程式を考える.$ x$軸か らの弦の変位を$ y(x,t)$とする.場所$ x$と時刻$ t$を決めたら弦の変位が決まるので,変 位は$ y(x,t)$と表すことができる.弦の変位は$ y(x,t)$は,弦の長さ$ L$に比べて十分小 さい場合,次の偏微分方程式が成り立つ.

$\displaystyle \if 12 \cfrac{\partial y}{\partial t} \else \cfrac{\partial^{2} y...
... x} \else \cfrac{\partial^{2} y}{\partial x^{2}}\fi \qquad(c^2=T/\rho,\,c\ge 0)$ (64)

これを波動方程式と言う.ここで,$ c$は波の速度,$ T$は弦の張力,$ \rho$は弦の線密度である.
図 6: 弦の振動の様子.
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/string_vib.eps}
波動方程式(64)--偏微分方程式のひとつ--の解を,

$\displaystyle y(x,t)=X(x)T(t)$ (65)

とそれぞれの変数の関数の積の形になると仮定する.これを変数分離形と言う.この仮定 した解を元の偏微分方程式に代入する.すると,

$\displaystyle X(x)T^{\prime\prime}(t)=c^2X^{\prime\prime}(x)T(t)$ (66)

が得られる.これは,

$\displaystyle \frac{T^{\prime\prime}(t)}{c^2T(t)}=\frac{X^{\prime\prime}(x)}{X(x)}$ (67)

となる.この左辺は時刻$ t$のみの関数で,右辺は場所$ x$のみの関数である.これが等し いということは,両辺の値は定数でなくてはならない.この定数を$ -\lambda$とすると,

$\displaystyle \frac{T^{\prime\prime}(t)}{c^2T(t)}=\frac{X^{\prime\prime}(x)}{X(x)}=-\lambda$ (68)

となる.これを整理すると,

  $\displaystyle X^{\prime\prime}(x)+\lambda X(x)=0$ (69)
  $\displaystyle T^{\prime\prime}(t)+\lambda c^2T(t)=0$ (70)

という連立常微分方程式になる.弦の振動の場合,図6に示すように 弦の両端で固定されている.固定されている部分では,弦の変位$ y(x,t)$はゼロである. したがって,

  $\displaystyle X(0,t)=0$   $\displaystyle X(L,t)=0$   (71)

である.この条件--境界条件--を満たすことができるのは,

  $\displaystyle X(x)=B_n\sin\frac{n\pi x}{L}$   $\displaystyle \lambda=\left(\frac{n\pi}{L}\right)^2$   (72)

である.時刻の項の常微分方程式(70)は,

$\displaystyle T^{\prime\prime}+\left(\frac{n\pi c}{L}\right)^2T=0$ (73)

となる. $ (n\pi c/L)^2$は正の実数であるので,一般解は

$\displaystyle T(t)=a_n\cos\frac{n\pi ct}{L}+b_n\sin\frac{n\pi ct}{L}$ (74)

となる.空間および時刻の常微分方程式から得られた解を元の仮定した解 (65)に代入すると

$\displaystyle y_n(x,t)= C_n\sin\frac{n\pi x}{L}\cos\frac{n\pi ct}{L}+ D_n\sin\frac{n\pi x}{L}\sin\frac{n\pi ct}{L}$ (75)

となる.元の波動方程式は線形なので,重ね合わせの原理が成り立つ.すなわち,解は

$\displaystyle y(x,t)$ $\displaystyle =\sum_n y_n(x,t)$    
  $\displaystyle =\sum_n\left(C_n\sin\frac{n\pi x}{L}\cos\frac{n\pi ct}{L}+ D_n\sin\frac{n\pi x}{L}\sin\frac{n\pi ct}{L}\right)$ (76)

と書き表すことができる.

5.2 未知定数の値を決める

5.3 境界条件

弦の振動の境界条件は,

  $\displaystyle X(0,t)=0$   $\displaystyle X(L,t)=0$   (77)

である.物理的には,弦の両端を固定している--ことに対応している.すでに,この条 件は式(76)に含まれている.空間に関する波動方程式の解のうち $ \sin$の項のみを選んだ過程を思い出せ.

5.4 初期条件

式(76)の$ C_n$$ D_n$は,時刻$ t=0$の弦の形と速度分布より決めること ができる.$ t=0$のときの形と速度を

$\displaystyle y(x,0)=f(x)$ (78)
$\displaystyle \if 11 \cfrac{\partial y(x,0)}{\partial t} \else \cfrac{\partial^{1} y(x,0)}{\partial t^{1}}\fi =v(x)$ (79)

とする.この様子を図78に示 す.これらを初期条件という.初期の弦の形$ f(x)$と速度分布$ v(x)$は問題として 与えられるので既知である.偏微分方程式(64)は,初期条件以降の弦の運 動を表す.

図 7: $ t=0$の波形$ f(x)$
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.8]{figure/string_vib_init_y.eps}
図 8: $ t=0$の速度分布$ v(x)$
\includegraphics[keepaspectratio, scale=0.8]{figure/string_vib_init_v.eps}

偏微分方程式の解である式(76)が初期条件を満足するように$ C_n$$ D_n$を決めれば,波動方程式が完全に解けたことになる.それらの値は,初期条件と比 較することにより決めることができる.式(76)の$ t=0$の弦の形と速 度は,

$\displaystyle y(x,0)$ $\displaystyle =\sum_n C_n\sin\frac{n\pi x}{L}$ (80)
$\displaystyle \if 11 \cfrac{\partial y(x,0)}{\partial t} \else \cfrac{\partial^{1} y(x,0)}{\partial t^{1}}\fi$ $\displaystyle =\sum_n D_n\frac{n\pi c}{L}\sin\frac{n\pi x}{L}$ (81)

となる6

解の式から求めたこれらは,初期条件である式 (78)と(79)に等しい.だから,

$\displaystyle f(x)$ $\displaystyle =\sum_n C_n\sin\frac{n\pi x}{L}$ (82)
$\displaystyle v(x)$ $\displaystyle =\sum_n D_n\frac{n\pi c}{L}\sin\frac{n\pi x}{L}$ (83)

となる.この式から,既知である$ f(x)$$ v(x)$を使い$ C_n$$ D_n$を決めれば,全て解 けたことになる.問題は,この式から$ C_n$$ D_n$を決めることである.

ここで,$ C_n$$ D_n$を求める前に,$ f(x)$$ v(x)$の性質を考える.$ f(x)$$ v(x)$の 定義域は$ [0,\,L]$である.したがって,$ f(x)$$ v(x)$はフーリエ級数,フーリエ正弦 級数,フーリエ余弦級数などで展開できる.また,$ x=0$$ x=L$で弦は固定されているので,

$\displaystyle f(0)=f(L)=0$ (84)
$\displaystyle v(0)=v(L)=0$ (85)

となる.これらのことから,$ f(x)$$ v(x)$はフーリエ正弦級数で展開する--ことが望 ましい.係数の収束も早いし,式(82)や (83)との対応も良い.すなわち

  $\displaystyle f(x)=\sum_{n=1}^{\infty}p_n\sin\frac{n\pi x}{L}$   ここで,$\displaystyle \quad p_n=\frac{2}{L}\int_0^L f(x)\sin\frac{n\pi x}{L}\,\mathrm{d}x$ (86)
  $\displaystyle v(x)=\sum_{n=1}^{\infty}q_n\sin\frac{n\pi x}{L}$   ここで,$\displaystyle \quad q_n=\frac{2}{L}\int_0^L v(x)\sin\frac{n\pi x}{L}\,\mathrm{d}x$ (87)

である.

これらの式を,式(82)や(83)に代入すると

$\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}p_n\sin\frac{n\pi x}{L}$ $\displaystyle =\sum_n C_n\sin\frac{n\pi x}{L}$ (88)
$\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}q_n\sin\frac{n\pi x}{L}$ $\displaystyle =\sum_n D_n\frac{n\pi c}{L}\sin\frac{n\pi x}{L}$ (89)

となる.したがって,

  $\displaystyle p_n=C_n$   $\displaystyle q_n=D_n\frac{n\pi c}{L}$   (90)

である.これから,

$\displaystyle C_n$ $\displaystyle =p_n=\frac{2}{L}\int_0^L f(x)\sin\frac{n\pi x}{L}\,\mathrm{d}x$ (91)
$\displaystyle D_n$ $\displaystyle =\frac{L}{n\pi c}q_n=\frac{2}{n\pi c}\int_0^L v(x)\sin\frac{n\pi x}{L}\,\mathrm{d}x$ (92)

$ C_n$$ D_n$を求めることができる.これで,波動方程式が境界条件や初期条件の元, 完全に解けたことになる.解は,次のように書くことができる.

$\displaystyle y(x,t)=\sum_n\left(p_n\sin\frac{n\pi x}{L}\cos\frac{n\pi ct}{L}+ \frac{Lq_n}{n\pi c}\sin\frac{n\pi x}{L}\sin\frac{n\pi ct}{L}\right)$ (93)

5.5 具体的な弦の振動

弦の初期状態を図9のようにする.弦の中央をゆっくりとつま んで,そして離す.どのように振動するであろうか?
図 9: 弦の初期状態
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/string_triangle.eps}

式(93)の$ p_n$$ q_n$を決めれば,弦の振動は確定する.そのた めに初期条件を考えよう.$ t=0$の時,弦の速度はどこでもゼロなので,$ v(x)=0$である. したがって,式(87)より,

$\displaystyle q_n=0$ (94)

となる.残りの$ p_n$は,式(86)を用いて計算する.弦の初期状態は

$\displaystyle f(x)= \begin{cases}\alpha x & 0\leq x \leq \cfrac{L}{2}\\ \alpha (L-x) & \cfrac{L}{2}\leq x \leq L \end{cases}$ (95)

と書くことができる.ここで,$ \alpha$は弦の傾き,$ L$は弦の長さである.これから, $ p_n$は,式(86)を使うと次のように計算できる.

$\displaystyle p_n$ $\displaystyle =\frac{2}{L}\int_0^{L/2}\alpha x \sin\frac{n\pi x}{L}\,\mathrm{d}x+ \frac{2}{L}\int_{L/2}^{L}\alpha (L-x) \sin\frac{n\pi x}{L}\,\mathrm{d}x$    
  $\displaystyle =\frac{2}{L}\left[ -\alpha x \frac{L}{n\pi}\cos\frac{n\pi x}{L} \...
...}+ \frac{2\alpha}{L}\int_0^{L/2}\frac{L}{n\pi}\cos\frac{n\pi x}{L}\,\mathrm{d}x$    
  $\displaystyle \qquad +\frac{2}{L}\left[ -\alpha(L-x)\frac{L}{n\pi}\cos\frac{n\p...
...L- \frac{2\alpha}{L}\int_{L/2}^L\frac{L}{n\pi}\cos\frac{n\pi x}{L}\,\mathrm{d}x$    
  $\displaystyle =-\frac{\alpha L}{n\pi}\cos\frac{n\pi}{2} +\frac{2\alpha}{L}\left...
...-\frac{2\alpha}{L}\left[\frac{L^2}{n^2\pi^2}\sin\frac{n\pi x}{L}\right]_{L/2}^L$    
  $\displaystyle =\frac{4\alpha}{L}\left(\frac{L^2}{n^2\pi^2}\sin\frac{n\pi}{2}\right)$    
  $\displaystyle =\frac{4\alpha L}{n^2\pi^2}\sin\frac{n\pi}{2}$ (96)

$ q_n=0$なので,弦の振動は,

$\displaystyle y(x,t)=\sum_n \frac{4\alpha L}{n^2\pi^2}\sin\frac{n\pi}{2}\sin\frac{n\pi x}{L}\cos\frac{n\pi ct}{L}$ (97)

となる. $ \sin(n\pi/2)$の項は$ n$が偶数の場合ゼロとなる.したがって,$ n$は奇数のみ を加算すればよい.すると,

$\displaystyle y(x,t)$ $\displaystyle =\sum_{N=1}^\infty \frac{4\alpha L}{(2N-1)^2\pi^2}(-1)^{N-1} \sin\frac{(2N-1)\pi x}{L}\cos\frac{(2N-1)\pi ct}{L}$    
  $\displaystyle =\sum_{N=1}^\infty \frac{(-1)^{N-1}4\alpha L}{(2N-1)^2\pi^2} \sin\frac{(2N-1)\pi x}{L}\cos\frac{(2N-1)\pi ct}{L}$ (98)

となる.これが,最初の図9の状態の弦の振動を表す式である. これを弦の条件

  $\displaystyle \alpha=\frac{1\times 10^{-3}}{0.3}$   $\displaystyle L=0.6$   $\displaystyle \frac{\pi c}{L}=2\pi\times 440$   (99)

を代入するとラの音がでる.位相が30度ごとの弦の状態を図1015に示す.想像もつかないような弦の形になる.なぜ,このようなこ とが生じるか,物理的な理由を考えてみよ.

図: 時刻 0[ $ \mathrm{msec}$]
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/wave00.eps}
図: 時刻 0.18939[ $ \mathrm{msec}$]
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/wave30.eps}
図: 時刻 0.37879[ $ \mathrm{msec}$]
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/wave60.eps}
図: 時刻 0.56818[ $ \mathrm{msec}$]
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/wave90.eps}
図: 時刻 0.75758[ $ \mathrm{msec}$]
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/wave120.eps}
図: 時刻 0.94697[ $ \mathrm{msec}$]
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/wave150.eps}

ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年2月28日


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