4 静電ポテンシャル

実際に電場を計算するためのもう少し便利な式を導いておこう.静電場をあらわす一般化 されたクーロンの法則の式(10)は

$\displaystyle \boldsymbol{E}(\boldsymbol{r})=-\nabla \left\{\frac{1}{4\pi\varep...
...c{1}{\vert\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime\vert} \mathrm{d}V^\prime\right\}$ (19)

と書いてもよい.体積分の積分変数は $ \boldsymbol{r}^\prime$で,勾配$ \nabla$の微分の変数 は $ \boldsymbol{r}$と異なるから,微分と積分を入れ替えることができる.ここで,右辺にある体 積積分を

$\displaystyle \phi(\boldsymbol{r})=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0} \int_{V^\prime} ...
...{r}^\prime)}{\vert\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}^\prime\vert} \mathrm{d}V^\prime$ (20)

とする.これは,全ての空間--宇宙全体--にわたっての積分である.この積分の値 $ \phi$をスカラーポテンシャルと言う.このスカラーポテンシャルを導入することにより, 電場は,

$\displaystyle \boldsymbol{E}=-\nabla \phi$ (21)

と簡単に計算できる.以前,任意のベクトル場は管状と渦無しの場に分解できると述べた. この式から,静電場は渦無しのベクトル場で,管状の部分が無いことが分かる.

次にスカラーポテンシャルの性質を調べる.電荷$ q$を静電場の中に置くと, $ \boldsymbol{F}=q\boldsymbol{E}$と いう力を受ける.その力に抗して,その電荷を$ A$点から$ B$点まで,移動させるのに必要 な仕事$ W$

$\displaystyle W$ $\displaystyle =-\int_A^B\boldsymbol{F}\cdot\mathrm{d}\ell$    
  $\displaystyle =-q\int_A^B\boldsymbol{E}\cdot\mathrm{d}\ell$    
  $\displaystyle =q\int_A^B\nabla \phi \cdot\mathrm{d}\ell$    
  $\displaystyle =q\left[\phi(B)-\phi(A)\right]$ (22)

となる.以前,勾配$ \nabla $の積分のところで説明したように,この積分は経路に依存 しない.積分の両端の場所のみによって,この仕事量$ W$は決まるのである.仕事量$ W$は, $ A$点に比べたときの$ B$点での電荷$ q$が持つエネルギーの増加をあらわしている. $ q\phi$を位置によるエネルギー,すなわちポテンシャルエネルギーと解釈することがで きる.よく考えると,この $ \phi$は電圧の定義とも等しい.ポテンシャル$ \phi$と言っ ているが,これは電圧と言い替えても差し支えない.

式(18)から,電場の周回積分はゼロと分かっている.従って,

$\displaystyle \oint \nabla \phi \cdot\ell=0$ (23)

となる.これは,微小区間での電位差 $ \nabla \phi \cdot\ell$を足しあわせて,任意の閉 じた経路を積分するとゼロになると言っている.これは,回路で使うキルヒホッフの法則 の片割れである.式(23)は静電場で適用され,キルヒホッフの法則は 交流のように時間的に変化する回路でも成立する--と言う反論がある.通常の回路の大 きさは,その動作周波数の波長に比べて,十分小さい.そのため,電磁気学的に見ると, ほとんど静電場で近似できる.したがって,波長よりも十分小さい普通の回路では,式 (23)は良い近似となる.一方,波長が短くなり,回路と同程度の大きさに なると,もはやキルヒホッフの法則は成り立たなくなる.
ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年7月12日


no counter