6 付録 ビオ・サバールの法則

式(5)は,無限に長い電流が作る磁場である.これが 分かると,微小な長さ $ \mathrm{d}z$が作る磁場の式が欲しくなる.磁場は全ての電流を積分 して得られる--となると理論を考えるのに大変都合が良い.図 13のような状況を考える.図中の点 $ \mathrm{P}$の作る磁場は, 式5から分かっている.ここの磁場は, $ \mathrm{d}z$が 作る磁場 $ \mathrm{d}B$を足しあわせたもの--積分--になるはずである.したがって,

$\displaystyle \frac{\mu_0}{2\pi}\frac{\boldsymbol{I}\times\boldsymbol{R}}{R^2}=\int_{-\infty}^\infty f(\boldsymbol{I},\boldsymbol{r})\mathrm{d}z$ (16)

となる $ f(\boldsymbol{I},\boldsymbol{r})$があるはずである.このように表すと, $ \mathrm{d}z$が作る磁場 $ \mathrm{d}B$

$\displaystyle \mathrm{d}B=f(\boldsymbol{I},\boldsymbol{r})\mathrm{d}z$ (17)

となる.ここまでくれば, $ f(\boldsymbol{I},\boldsymbol{r})$の関数形を求めることあ重要な問題となる. ビオとサバールはここまで考えて歴史に名前を残した.だれでもここまでたどり着ければ, 関数形を見つけることはできるであろう.科学史に名前を残すためには,時代の最先端に たどり着くことが如何に大事か--がわかる.

$ \mathrm{d}B$がベクトルなので, $ f(\boldsymbol{I},\boldsymbol{r})$もベクトルになる必要がある.幸いな ことに,磁場$ B$は電流 $ \boldsymbol{I}$とも位置 $ \boldsymbol{r}$にも垂直である.そこで,微小磁場 $ \mathrm{d}B$は,ベクトル積 $ \boldsymbol{I}\times\boldsymbol{r}$に関係がある--と類推できる.また,遠 距離$ r$が離れると,磁場が小さくなることも理解できるであろう.問題は距離の何乗で 小さくなるか?--である.ここでは,距離の2乗としてみよう.間違っていれば,1乗に したり,3乗にしてみて,正しい関数形を探せばよい.科学史に名前を残すことを考える と,これくらいの努力をしてもよいだろう.これまでの直感から,

$\displaystyle \mathrm{d}\boldsymbol{B}=k\frac{\boldsymbol{I}\times\boldsymbol{r}}{\vert\boldsymbol{r}\vert^3}\mathrm{d}z$ (18)

とかける.比例定数の$ k$は後から調整すればよい.

この式を地道に積分を行う.計算する積分は

$\displaystyle \boldsymbol{B}=k\int_{-\infty}^\infty\frac{\boldsymbol{I}\times\boldsymbol{r}}{\vert\boldsymbol{r}\vert^3}\mathrm{d}z$ (19)

である.ベクトルの積分となっており,通常はやっかいである.しかし,幸いなことに, $ \boldsymbol{I}$ $ \boldsymbol{r}$はいつも同じ平面内にあり,$ z$の位置が変わってもベクトル積の向 きは変化しない.したがって,スカラーの積分を行った後,方向を考えればよい.

$\displaystyle B$ $\displaystyle =k\int_{-\infty}^\infty\frac{Ir\sin\theta}{r^3}\mathrm{d}z$    
  $\displaystyle =k\int_{-\infty}^\infty\frac{I\sin\theta}{r^2}\mathrm{d}z$    
  $\displaystyle =k\int_{-\infty}^\infty\frac{IR}{r^3}\mathrm{d}z$    
  $\displaystyle =kIR\int_{-\infty}^\infty\frac{\mathrm{d}z}{(R^2+z^2)^{3/2}}$    
  $\displaystyle =kIR\left[\frac{z}{R^2\sqrt{R^2+z^2}}\right]_{-\infty}^\infty$    
  $\displaystyle =\frac{2kI}{R}$ (20)

この結果と式(5)を比べる.先の述べたように方向 は合っている.また,係数$ k$

$\displaystyle k=\frac{\mu}{4\pi}$ (21)

とすれば,大きさも合う.したがって,微小領域 $ \mathrm{d}z$がつくる微小磁場 $ \mathrm{d}
\boldsymbol{B}$

$\displaystyle \mathrm{d}\boldsymbol{B}=\frac{\mu}{4\pi}\frac{\boldsymbol{I}\times\boldsymbol{r}}{\vert\boldsymbol{r}\vert^3}\mathrm{d}z$ (22)

と考えても良い.普通,これをビオ-サバールの法則と言う.また, $ \boldsymbol{I}\mathrm{d}z$ $ \mathrm{d}\boldsymbol{I}$として,

$\displaystyle \mathrm{d}\boldsymbol{B}=\frac{\mu}{4\pi}\frac{\mathrm{d}\boldsymbol{I}\times\boldsymbol{r}}{\vert\boldsymbol{r}\vert^3}$ (23)

と書かれる場合もある.
図 13: 無限直線電流と磁場
\includegraphics[keepaspectratio,scale=1.0]{figure/Biot_Savart_line.eps}

ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成18年6月22日


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