3 エネルギー保存則

力学のエネルギー保存則はよく知られている。また、これまでの自然科学の学習の経験か らエネルギー保存則はどのような場合でも成立することは分かっていると思う。ここでは、 力学と電磁気学を含めた系でもそれが成立することを示す。

エネルギー保存則については、完全に教科書に沿って説明しよう。電磁場中での運動方程 式も教科書に沿って

$\displaystyle m\frac{\mathrm{d}\boldsymbol{v}}{\mathrm{d}t}=q(\boldsymbol{E}+\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{B})$ (10)

とする。相対論的補正は加味されていないが、それを入れても同じ結果が得られるであろ う。

電磁場中に2つの電荷があったとする。それぞれの電荷量を$ q_1$$ q_2$、質量を$ m_1$$ m_2$とする。それぞれの運動方程式は、

  $\displaystyle m_1\frac{\mathrm{d}\boldsymbol{v_1}}{\mathrm{d}t}=q_1\boldsymbol{E}+q_1\boldsymbol{v_1}\times{\boldsymbol{B}}$ (11)
  $\displaystyle m_2\frac{\mathrm{d}\boldsymbol{v_2}}{\mathrm{d}t}=q_2\boldsymbol{E}+q_2\boldsymbol{v_1}\times{\boldsymbol{B}}$ (12)

となる。このての方程式を積分するときは、両辺に $ \boldsymbol{v}$の内積を乗じるのが常套手段 である。そうすると、

$\displaystyle m\frac{\mathrm{d}\boldsymbol{v}}{\mathrm{d}t}\cdot\boldsymbol{v}= \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\left[\frac{1}{2}mv^2\right]$ (13)

となる。本当にそうなるかは、 $ v^2=\boldsymbol{v}\cdot\boldsymbol{v}$に注意して、右辺を微分してみれ ば分かる。したがって、先の運動方程式は

$\displaystyle \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\left[\frac{1}{2}m_1v_1^2\right]$ $\displaystyle =q_1\boldsymbol{v}_1\cdot\boldsymbol{E}+q_1\boldsymbol{v_1}\cdot(\boldsymbol{v_1}\times{\boldsymbol{B}})$    
  $\displaystyle =q_1\boldsymbol{v}_1\cdot\boldsymbol{E}$ (14)
$\displaystyle \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\left[\frac{1}{2}m_2v_2^2\right]$ $\displaystyle =q_2\boldsymbol{v}_2\cdot\boldsymbol{E}+q_2\boldsymbol{v}_2\cdot(\boldsymbol{v_1}\times{\boldsymbol{B}})$    
  $\displaystyle =q_2\boldsymbol{v}_2\cdot\boldsymbol{E}$ (15)

となる。ここでは、 $ \boldsymbol{v}$ $ \boldsymbol{v}\times\boldsymbol{B}$は直交することを利用した。この式 は、磁場 $ \boldsymbol{B}$は電荷にエネルギーを与えることが出来ないと言っている。左辺の括弧 内は運動エネルギー$ T$を表している。両辺を積分すると、 $ dT=q\boldsymbol{E}\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{r}$となり、運動エネルギーの変化は電場と変位の内積となる。 運動エネルギーに磁場は全く寄与しないのである。それならば、発電機はどうなっている のか?と言う疑問が湧くであろう。これについては、前回の授業で述べたはずである。こ こでは、運動エネルギーについてのみ述べたが、ポテンシャルエネルギー(位置エネルギー) を含めても同じことが言える。

系全体の運動エネルギーの変化と電磁場の関係が見るために、先ほどの2つの運動方程式 を足しあわせよう。この操作をするときに、荷電粒子は大きさを持つものとし、その電荷 密度を$ \rho$とする。したがって、電流密度は $ \boldsymbol{j}=\rho\boldsymbol{v}$となるので、これを 考慮すると、

$\displaystyle \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t} \left[\frac{1}{2}m_1v_1^2+\frac{1}...
...right] =\int_V(\boldsymbol{j}_1+\boldsymbol{j}_2)\cdot\boldsymbol{E}\mathrm{d}V$ (16)

となる。当然、積分領域は考えている系全体である。

次に、マクスウェルの方程式の式4を使う。すると、

$\displaystyle \boldsymbol{j}_1+\boldsymbol{j}_2=\nabla\times \boldsymbol{H}- \i...
...bol{D}}{\partial t} \else \frac{\partial^{1} \boldsymbol{D}}{\partial t^{1}}\fi$ (17)

となる。教科書には、この式の右辺は2粒子の作る場と書いてあるが、それは場の一部に すぎない。この式は、右辺のように電磁場を微分するとそれは電流密度 になると言っているだけである。その電磁場は当然、2粒子が作るものも含まれるが、ほ かの理由により存在する電磁場も含む。この式を使うと、2粒子の運動エネルギーに関す る式は

$\displaystyle \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t} \left[\frac{1}{2}m_1v_1^2+\frac{1}...
...al^{1} \boldsymbol{D}}{\partial t^{1}}\fi \right)\cdot\boldsymbol{E}\mathrm{d}V$ (18)

となる。この式の左辺は運動エネルギーに、いっぽう右辺は電磁場に関するものである。 だんだんと、力学的なエネルギーと電磁場のエネルギーの関係に近づいたことが実感出来 るであろう。

さて、

$\displaystyle \div{\left(\boldsymbol{E}\times\boldsymbol{H}\right)} =\boldsymbo...
...\cdot\nabla\times \boldsymbol{E}-\boldsymbol{E}\cdot\nabla\times \boldsymbol{H}$ (19)

のようなベクトル恒等式がある4。これを用いると、

$\displaystyle \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t} \left[\frac{1}{2}m_1v_1^2+\frac{1}{2}m_2v_2^2\right]$ $\displaystyle =\int_V\left[\boldsymbol{H}\cdot\nabla\times \boldsymbol{E}-\div{...
...al^{1} \boldsymbol{D}}{\partial t^{1}}\fi \cdot\boldsymbol{E}\right]\mathrm{d}V$    
  $\displaystyle =\int_V\left[\boldsymbol{H}\cdot\nabla\times \boldsymbol{E}- \if ...
...\right]\mathrm{d}V -\int_V\div{(\boldsymbol{E}\times\boldsymbol{H})}\mathrm{d}V$    
  $\displaystyle =\int_V\left[-\boldsymbol{H}\cdot \if 11 \frac{\partial \boldsymb...
...m{d}V -\int_S(\boldsymbol{E}\times\boldsymbol{H})\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S$    
  $\displaystyle =-\int_V\left[\mu\boldsymbol{H}\cdot \if 11 \frac{\partial \bolds...
...m{d}V -\int_S(\boldsymbol{E}\times\boldsymbol{H})\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S$    
  $\displaystyle =-\int_V\left[ \if 11 \frac{\partial }{\partial t} \else \frac{\p...
...m{d}V -\int_S(\boldsymbol{E}\times\boldsymbol{H})\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S$    
  $\displaystyle =-\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\int_V\left[ \frac{1}{2}\boldsymb...
...m{d}V -\int_S(\boldsymbol{E}\times\boldsymbol{H})\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S$ (20)

となる。左辺は粒子の運動エネルギーの変化を表している。右辺第一項は電磁場のエネル ギーの変化である。第二項は、エネルギーの流れを表している。この辺の事情については 後で述べることにする。この式は、 と書き改めることができる。

$\displaystyle \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\left[ \frac{1}{2}m_1v_1^2+\frac{1}...
...t] +\int_S(\boldsymbol{E}\times\boldsymbol{H})\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d}S =0$ (21)

この式のそれぞれの項は、

  $\displaystyle \frac{1}{2}m_1v_1^2+\frac{1}{2}m_2v_2^2$   粒子の運動エネルギー $ \mathrm{[Jule]}$    
  $\displaystyle \frac{1}{2}\boldsymbol{B}\cdot\boldsymbol{H}$   磁場のエネルギー密度 $ \mathrm{[Jule/m^3]}$    
  $\displaystyle \frac{1}{2}\boldsymbol{E}\cdot\boldsymbol{D}$   電場のエネルギー密度[ $ \mathrm{Jule/m^3]}$    
  $\displaystyle \boldsymbol{E}\times\boldsymbol{H}$   単位面積あたりのエネルギーの流れ $ \mathrm{[Watt/m^2]}$      

を意味している。運動エネルギーについては、力学で学習したとおりである。電磁場のエ ネルギーに関しては静電場での話と同じである。最後の項のみここで追加されたことにな る。エネルギー保存則を満足させるためには、最後の項はエネルギーの流れ[$ Watt/m^2$] となる必要がある。本当にエネルギーの流れになっているかは、実験で確かめる必要があ る。いろいろな実験の結果、この式がエネルギーの流れを表していることが確かめられて いるのである。このエネルギーの流れのベクトル

$\displaystyle \boldsymbol{S}=\boldsymbol{E}\times\boldsymbol{H}$ (22)

は、発見者の名から、ポインティングベクトルと呼ばれている。

これらのエネルギーの関係は、図1のように表すこと ができる。

図 1: 電磁場と力学のエネルギーの関係
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/energy.eps}

ホームページ: Yamamoto's laboratory
著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年6月24日


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